水風呂に頭入れられ… 受験強制され失敗… 親に植え付けられた恐怖と劣等感 教育虐待で歪んだ人生 #こどもをまもる
育むべきは「生き残る力」ではなく「人とともに生きる力」
「勉強だけではなく、親が子どもに一方的に押し付けることは何であっても虐待になりかねない危うさを持っています」 元武蔵大学教授で臨床心理学が専門の武田信子さんは言う。武田さんは「教育虐待(Educational Maltreatment)」という言葉を初めて日本の学会で使った研究者だ。
親が子どもに教育の機会を提供するのは当然のこと。だが、親が子どもをリスペクトせずに、将来への不安や欲望からよかれと思って強要する教育は不適切であり、それが過剰になったときに問題が起きると指摘する。 「九大生が両親を殺した佐賀の事件では、父親に暴力などの問題がありました。それを親族たちも知っていて、止めたがっていました。息子は苦しい状況に置かれて限界まで追い詰められていたのです。だから、被害者遺族から減刑嘆願書まで出されています。それなのに父親は自分の加害性に死ぬまで気づかなかったのです。それはもう不適切な養育だったと言わざるを得ないと思います」 教育虐待は母親が陥りやすい側面があるが、それには背景があるという。 「一般的に、母親のほうが父親より子どもに関わる時間が長い。そのため、母親のほうが子育ての責任を感じやすく必死になってしまう。大学受験でも中学受験でも、子どもの能力を超えて負担を多くかけてしまうわけです」
こうした教育虐待を防ぐにはどうすればよいのか。 問題の根幹にあるのは教育の目標が受験にばかり向けられていることだと武田さんは分析する。偏差値やテストの結果など受験に関する数値が基準となることで、親が子どもを見る目が狭くなり、結果的に不適切な押し付けとなる。だが本来の教育の目的はそうではないと武田さんは言う。 「重要なのは『生きる力』です。文部科学省も掲げていますが、私の言葉で丁寧に補足すると、それは“人とともに生きる力”ということになります。でも、いまの社会に根づいているのは“生き残る力”。これでは会社などで競争して他人の評価軸に合わせて生き残るような力にしかなりません。子どもが自分の人生に納得できるようにタイミングを見て成長の機会を与える。そういう長期的観点こそ、親に望まれる姿勢ではないでしょうか」 森健(もり・けん) ジャーナリスト。1968年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、総合誌の専属記者などを経て独立。『「つなみ」の子どもたち』で2012年に第43回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『小倉昌男 祈りと経営』で2015年に第22回小学館ノンフィクション大賞、2017年に第48回大宅壮一ノンフィクション賞、ビジネス書大賞2017審査員特別賞受賞。2023年、「安倍元首相暗殺と統一教会」で第84回文藝春秋読者賞受賞。 ------------ 「子どもをめぐる課題(#こどもをまもる)」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。子どもの安全や、子どもを育てる環境の諸問題のために、私たちができることは何か。対策や解説などの情報を発信しています。