水風呂に頭入れられ… 受験強制され失敗… 親に植え付けられた恐怖と劣等感 教育虐待で歪んだ人生 #こどもをまもる
だが、齊藤さんは、この事件 が「教育虐待」という言葉でくくられることに、やや違和感があると感じている。 「9年間浪人していたことや『何点取りなさい』と母からプレッシャーをかけられていたことも事実。そこだけ見れば教育虐待に見えます。でも、彼女が本当に苦しんでいたのは受験勉強自体というより、母から行動や生活を制限され、決められていたことだと思います。当時彼女が書いていた日記に『まるで、囚人のような生活。『カゴの中の鳥』などという生やさしいものじゃない』とありました」 娘が母を殺害する直前のきっかけはスマホをめぐって叱責されたことだった。齊藤さんは著書でこう書いている。 <あかり(注:娘)が母を殺そうと思ったのは、九年におよぶ医学部浪人を強制されたからではなかった。その「地獄の時間」を脱し、ようやく自分の足で歩こうとしたとき、またも母の暴言や拘束によって「地獄の再来」となることを心から恐れたのだ> 先に紹介したサトリさんや野崎さんも、勉強の強要ではない部分に問題の根源があった。
生命の危機を感じるレベルの暴力と怒鳴り声がトラウマ
サトリさんが精神障害認定を受けたのは約5年前のこと。そのとき精神科で指摘された体調不良の大きな要因が幼い頃のトラウマだった。小2の冬、数百円の買い食いをしたのが母親にばれた。寒い中、外に出されていると、そこに父親が帰ってきた。 「父は『何やってんだ!』とすごい形相で怒り出し、『お前なんか死んじゃえ!』と首を絞めてきた。私はズルズルお風呂場に引きずられて、水風呂に頭を突っ込まれたんです。そのときから、私はいつか父に殺されると思うようになった。それが父に対する恐怖の核心だったのです」 生命の危機を感じるような暴力、怒鳴り声などのハラスメント。それが自分の人生を歪めるきっかけだったといまは確信している。
前出の野崎さんも勉強すること自体は苦痛ではなかったと振り返る。 「勉強で上を目指し、いい結果が出れば自分にとっても良いこと。だからただ勉強しろと言われるのは教育虐待と思っていません。むしろ僕が苦しかったのは、兄と比較する母の考え方でした。不本意な成績を自分の人格と一緒にして否定されるとやはりきつい。親にとって子どもは平等じゃないのかなと疑問を抱いていました」