水風呂に頭入れられ… 受験強制され失敗… 親に植え付けられた恐怖と劣等感 教育虐待で歪んだ人生 #こどもをまもる
親からの教育虐待によって起きた2つの殺人事件
今年、教育虐待という言葉がたびたび口の端に上ることになったのには2つのきっかけがある。一つは、今年3月に佐賀県鳥栖市で当時九州大学1年生の男子学生(19)が両親を刺殺した事件。もう一つは、2018年に滋賀県で起きた医科大学生(当時)による母親殺害事件を描いたノンフィクション書籍が昨年末に刊行され、10万部という異例のヒットとなったことだ。 前者の事件では、男子学生が両親を殺害した背景に父親の教育虐待の影響が指摘された。学生は小学校時代から父親から勉強や成績アップを強要され、殴られたり、蹴られたりするなどの虐待を受けてきた。中学受験を経て公立の進学校に進み、九州大学に入学。だが今年3月、大学の成績が悪化したことで実家の父親に呼び出された。そこで用意していたナイフで父親を背後から刺し、止めようとした母親も刺殺した。9月、佐賀地裁で学生は懲役24年の判決を受けた。 後者の事件は、2018年3月、滋賀県の河川敷で女性の胴体が見つかったことで発覚した。被害者は近隣に住む58歳の女性で、加害者は看護師の娘(当時31)だった。世間が驚いたのは、娘が母からの激しい教育虐待を受けながら、医学部合格を目指して9浪も重ねていたことだった。娘は一審では殺意を否認していたが、二審は一転、殺意を認めた。
この公判から取材を始め、娘と多くの手紙を交換するなどして母娘の悲劇に至る過程を描いたのが、当時共同通信の記者だった齊藤彩さんだ。著書『母という呪縛 娘という牢獄』の販売サイトには、読者レビューが200件以上投稿されている。 齊藤さんは語る。「感想には『自分もこんな仕打ちを受けたらやってしまいかねない』など、娘の気持ちがよくわかるという同情が多い印象です」 この母による娘の束縛は異常なものだった。父は娘が小6のときに別居、母娘2人の生活になる。娘が私立中学に入学すると、母は娘の将来を医学部への入学と設定。その頃から母による娘への束縛が激しくなった。テストの点数が悪いと「何でこんなことも分からないの」と怒鳴り、何かあれば「バカ」「嘘つき」と罵倒する。やかんのお湯をかけてやけどを負わせたり、蹴り飛ばしたりといった暴力も珍しくなかった。就寝や起床時間はもちろん、日々の予定は逐一母に知らせなければならない。そんななか、娘は自分の成績では無理だとわかっていながら、医学部の受験を繰り返した。結果として入学したのは、地元の医科大学の看護学科。母の殺害はその大学卒業の間際に起きていた。