うつ病患者は、ある脳の神経回路が「2倍の大きさ」 最新研究
これまで、うつ病患者の脳に関する心理学的研究は、個人差をあまり考慮せず、主にグループ平均に基づいて行われてきた。多くの場合、これらの研究では「スナップショット」的なアプローチが取られ、追跡調査や比較をせずに、ある時点での脳活動を捉えていた。 この定型的なアプローチによって、うつ病について多くのことが明らかになった一方で、その多様な性質を理解するには深さが不足していた。しかし、2024年9月に『ネイチャー』誌に発表された研究は、このギャップを埋めるもので、その結果は驚異的だった。 この記事では、研究者のチャールズ・リンチとコナー・リストンが、うつ病患者では脳の神経回路の1つである「セイリエンスネットワーク」が2倍の大きさになっていることをどのように発見したのか、そしてそれがどのような意味を持つのかを解説する。 ■うつ病患者の「セイリエンスネットワーク」は2倍の大きさ 「うつ病は『再発と寛解を繰り返す』状態で、症状は時間の経過とともに現れたり消えたりします」とリンチはPsyPostのインタビューで述べている。彼は続けて、「しかし、これまでの脳画像研究の多くは、一時点での脳スキャンを横断的に取得するアプローチに留まっていました」と説明する。 そこで、リンチとリストンはfMRIスキャンを用いて、神経学とうつ病の関連を研究する独自のアプローチを取った。具体的には、リアルタイムの脳活動パターンを示す血流の変化に着目した。また、グループ全体の平均ではなく、個人レベルでの変化に焦点を当て、各参加者の脳の指紋のようなユニークなマップを作成した。 大うつ病性障害(MDD)と診断された6人の参加者と、精神疾患の既往歴のない37人の健康な対照群をスキャンした結果、リンチとリストンは、徐々に変化する脳内の変化とパターンを捉えることに成功した。彼らは22回のセッションにわたり、各参加者を約621.5分(約10時間)スキャンし、それぞれの脳の詳細な画像を得た。 最も重要な発見は、うつ病患者6人のうち4人で、セイリエンスネットワークが健康な対照群と比べて2倍以上の大きさであったことだ。この拡大は、感情や認知の処理に関連する脳領域、特に感情の処理や報酬、意味のある経験の評価に重要な役割を果たすことで知られる領域で顕著だった。 このセイリエンスネットワークの拡大の程度は驚くべきものだった。うつ病の人では健康な人に比べて、大脳皮質に占めるセイリエンスネットワークは約73%大きかったのだ。通常、セイリエンスネットワークは健康な脳では大脳皮質の約3.17%を占めるが、うつ病の人々では平均で約5.49%を占めていた。 ■より大きなセイリエンスネットワークがうつ病患者に与える影響 リンチとリストンは、外部に焦点を当てる「セントラルエグゼクティブネットワーク(CEN)」と内部に焦点を当てる「デフォルトモードネットワーク(DMN)」という2つの主要なネットワーク間で脳を切り替える際に、セイリエンスネットワークが重要な役割を果たすと指摘している。これにより、うつ病患者においてセイリエンスネットワークのサイズが増加すると、自己反省や空想、心のさまよい、うつ病性反芻などの行動に関連するDMNの機能不全が起こりうる。 簡単に言えば、セイリエンスネットワークは脳がどの刺激に対して注意を向け、優先順位をつけるかを決定する上で重要な役割を果たす。うつ病患者でこのネットワークが大きい場合、脳が否定的な思考、記憶、感情といった内的な手がかりに強く同調し、外部への注意を向けたり、それらから意識を切り離すことが難しくなっている可能性がある。 研究者たちは、この発見が「うつ病患者が比較的健康な期間から重症の期間へと移行する際に関与する脳領域とネットワークを理解する助けとなり、さらにこれらの脳ネットワークがどのように空間的に組織されているか(例えば、その大きさ)といった特徴が、うつ病のリスクにどのように影響を与えるかを特定するために重要である」と述べている。