世界最高齢123歳のワニ、子孫は1万匹
ナイルワニ(Crycodylus niloticus)は、アフリカ屈指の恐るべき肉食動物の1種であり、巨体と怪力、隠密行動でよく知られている。サハラ以南アフリカ全域の淡水生息地に分布する頂点捕食者であり、平均全長4~5m、体重は最大で750kgと、グランドピアノ1.5台分に相当する。 ナイルワニは、さまざまな獲物を捕食する。魚や鳥、レイヨウやスイギュウなどの大きな哺乳類まで、強力な顎と丈夫な歯で捕える、手強い悪役だ。攻撃的な気性をもち、刺激されなくてもヒトを襲う傾向にあることから恐れられている。 ナイルワニは、野生でも70年ほど生きるが、飼育下ではさらに長生きする。飼育下での驚異的な長寿事例の1つがヘンリーだ。知られているかぎり世界最高齢のワニで、南アフリカのスコットバーグにあるクロックワールド保全センターで暮らしている。 ■ヘンリー──1万匹の子を残した123歳のワニ 1900年に誕生したヘンリーは、2024年12月16日に124歳になる。彼の生涯からは、ナイルワニの驚異の生態と強靭さが窺える。 ヘンリーは1985年、ボツワナのオカバンゴ・デルタで、家畜と、ヒトの子どもを襲ったために捕獲された。攻撃的な気性から、地元住民の間で悪名高い個体だったが、クロックワールドで飼育されているいまでは、正反対の穏やかな振る舞いを見せている。 保全センターに移送されて以来、ヘンリーはたくさんのパートナーとの間に1万匹以上の子を儲けた。高齢ながら彼の生殖能力は衰えておらず、ここからワニの驚くべき生物学的特徴が見て取れる。多くの動物では、年齢とともに生殖能力が低下していくが、ワニは生涯のほぼ全般にわたって生殖が可能なのだ。ヘンリーの旺盛な精力は、ナイルワニという種のたくましさだけでなく、彼自身の遺伝的資質の高さも示している。 彼が1世紀以上も生きつづけてこられたのは、すぐれた代謝効率のおかげだ。ワニは、外部の熱源に頼って体温を調整する、「外温性(ectothermic)」の動物だ。この特徴のおかげでエネルギーを節約でき、長期間にわたって食事をとらなくても生存できる。 野生のナイルワニは、数カ月にわたって断食することがあり、その間は溜め込んだ脂肪だけで生きつづける。飼育下でたっぷり餌をもらいつつも、ヘンリーは、こうしたエネルギーの節約に長けた適応形質の恩恵を受けており、このことが長寿命に貢献したのは間違いないだろう。