世界最高齢123歳のワニ、子孫は1万匹
ヘンリーの長寿の秘訣は、白亜紀後期にそのルーツをもつ
■ヘンリーの長生きを可能にした、1億年前から続く適応 ヘンリーの長寿の秘訣は、白亜紀後期にそのルーツをもつ。当時の地球で、彼らの系統(ワニ目)は恐竜と共存していた。恐竜やその他の先史時代の動物たちは、大量絶滅により一掃されたが、ワニは多様な環境に適応でき、効率的な狩りの技術をもっていたおかげで生き延びることができた。 ワニは特殊な免疫系を持っており、血液の並外れた抗菌作用により、細菌がうようよしているよどんだ水の中に好んで暮らすことができる。他のワニとの激しい闘争(野生下では珍しくない)のあとでさえ、感染症にかかることはない。これも、強力な免疫系が主な理由とされ、2012年12月に『CABI Reviews』に掲載された論文では、過酷な環境で長い寿命を達成できるのも免疫系によるところが大きいと論じられている。 ヘンリーは、野生に生きる近縁種たちと同じように、よく発達した天然の防御機構のおかげで、たいていの動物であれば衰弱してしまうようなけがや病気から立ち直ることができたのだろう。 また、ナイルワニは並外れた感覚器官をもっている。ヘンリーの皮膚には、「外皮感覚器」と呼ばれる特殊な圧力受容器がある。この受容器によって、水圧のわずかな変化を感知し、完全な暗闇の中でさえ、獲物や捕食者の動きを知覚できるのだ。 ■ヘンリーの貢献 毎年、ヘンリーを目当てに数千人の来園者がクロックワールドを訪れる。長寿によって有名になったヘンリーは、園に貢献しているだけでなく、教育的価値も提供している。この123歳のワニを通じて、科学者たちは、爬虫類における加齢現象の生物学的研究を行い、この種をより深く理解するための洞察を導き出してきた。 一般大衆は、ヘンリーの生い立ちに触れながら、保全について学ぶ。ワニが、魚や草食獣の個体数を抑制するという、生態系のなかで不可欠な役割を担っており、その保護が重要であることを知る機会になっているのだ。 ナイルワニは絶滅危惧種ではない(IUCNレッドリストでは「LC:軽度懸念」と評価されている)が、生息地の喪失、狩猟、ヒトと野生動物の軋轢といった脅威にさらされている。クロックワールドは、スター的存在であるヘンリーを通じて、ナイルワニについての意識啓発をおこない、将来の世代が、この種とその生息地を守ることに価値を見いだせるように努めている。
Scott Travers