文化財の“廃墟”をどこまで修復すべき? ツアー大盛況「摩耶観光ホテル」がいま抱える難題
廃墟として初めて国の有形文化財に登録された稀有な建築物、兵庫県神戸市の旧摩耶観光ホテルで、新たな取り組みが始まっている。背景には自然の猛威による存続の危機と、予想を上回る保存の難しさがあるという。どういうことか。現地で取材した。【華川富士也/ライター】 【写真】屋上部分などあちこちで草木が茂っている…美しい「マヤカン」の姿
旧摩耶観光ホテル(通称マヤカン)は、神戸市の摩耶山の中腹にポツンと残るホテル廃墟。昭和初期に当時流行していたアールデコ様式を取り入れて建築された。アールデコならではの美しさは朽ちても変わらず、“廃墟の女王”として以前から廃墟ファンの間ではよく知られた存在だった。 2017年からは地元の「摩耶山再生の会」が主催するマヤカンに近づけるツアー「摩耶山・マヤ遺跡ガイドウォーク」が始まり、神戸の観光地の仲間入りをした。2021年に廃墟として初めて国有形文化財に登録されると、マヤカンの人気は一気に上昇し、ツアーは満席続きに。 映画「デスノート Light up the NEW world」(2016)やドラマ「たとえあなたを忘れても」(2023)の撮影地としても知られており、今では廃墟ファンから映画・ドラマファン、さらには“映え写真”を撮りたい人まで、幅広い層から人気を集めており、神戸市の観光名所として定着している。
内部公開ツアー、お値段は
そんな“マヤカン”で、10月から新しい試みが始まった。「建築保存ツーリズム」と銘打ち、これまで立ち入り禁止だった内部への立ち入りを許可し、非公開だった3~4階の一部をこのツアー限定で特別公開しているのだ。非公開の内部に入れることは、廃墟ファンにも、映画やドラマの作品ファンにも、映え写真を撮りたい人にも魅力的だ。 参加費用は、従来のガイドウォークが、ガイド料、保険、ケーブルカー、ロープウェイ代を含めて4500円なのに対し、今回のツアーは15000円、ケーブルカー代は別となっている。人気は絶大で、ガイドウォークの3倍超の金額にも関わらず、あっさりと1回15人ずつの予約枠が埋まってしまった。あまりに反響が大きいことから、新たに2025年1月6日、8日、9日に3回ずつ(3日間で計9枠)の追加開催が決まった。 これまで内部を非公開にしていたのには、もちろん理由がある。マヤカンは建築から95年が経過している上に、廃墟化して長く手入れがされていなかったため、壁や天井の一部に崩落の危険性があるのだ。実際、照明器具はことごとく落下してしまった。原則立ち入り禁止となっているのはこうした理由があり、従来のガイドウォークでは、中に入らず、近くから見学するのに止まっていた。 内部に入れるツアーを新たに行うにあたって、主催者は危険性を排除するために、足場を組んで安全な通路を設置。歩ける場所を限定した上で、有名な「余興場」「食堂」「額縁の間」などを見学できるようにした。