【前編】「不登校ビジネス」何が問題視されたのか 「わらにもすがる思い」孤立し不安に陥る保護者
「私は頼る相手を間違えていた」
小学生の子どもを育てる40代のA子さんも、不登校ビジネス事業者によるサービスを受けたところ、かえって親子関係が悪化した1人だ。 A子さんの子どもが登校を渋るようになったのは、夏休み明けのこと。やがて教室にいると身体面に不調が現れ、「もう学校には行きたくない」と強く訴えるようになり、間もなく完全に不登校となった。 「子どもを何とか再登校させたい」と焦ったA子さんは、不登校ビジネスの情報をスマホでかじりつくように検索。そんな中で彼女が選んだのは、Instagramの広告で知ったスダチだった。「再登校率90%」といった文言やたくさんの成功事例の発信を見て、「うちの子だって、何とかなるんじゃないか」と思ったのだ。 A子さんは、契約前の有料相談(4万円)で「親御さんの覚悟でお子さんは絶対変わります」との言葉に背中を押され、契約時の34万円を支払って45日間のサポートを受けることにした。なお契約書には、サービスの内容を口外してはならず、破った場合には賠償金を請求する場合もあるといった口外禁止条項が盛り込まれていたという。 サポート開始後、A子さんはスダチのメソッドに沿って、「家族でルールを作り、デジタル機器を絶ち、1日10回以上褒める」を実践し始めた。ところが待っていたのは、子どもの強烈な反発だった。家中の物が壊され、褒め言葉に対しても「気持ち悪い。そんなことを言うな」という反応が返ってきたのだ。 スダチからは「最初に暴れるのはよくあることなので毅然とした態度で」と助言され、葛藤しながらも実践を続けたが、「90%以上の子どもが再び登校し始める」というサービス開始後の3週間が近づいてきても、改善の兆しは見られなかった。親子ともに疲れ切ってしまい、結局メソッドに取り組むことを途中でやめたという。 実はA子さんは、スダチとの契約終了後も別の不登校ビジネスを2社利用している。スダチと同じく保護者をオンライン上で支援するもので、費用として計43万円を支払った。しかし解決には結びつかず、あるとき「私は頼る相手を間違えていた」と気づいたという。きっかけは、不登校の親の会に参加し、同じ悩みを抱える多くの保護者に出会えたことだった。 「だいぶ救われ、視野が開かれました。不登校ビジネスを利用していた頃の私は、悩みを話せる人がおらず孤立しており、不登校解決という言葉にわらにもすがる思いで不登校ビジネスに手を出しました。最初から親の会につながっていたら、違っていたかもしれません。今、子どもは落ち着きを取り戻し、週に1回別室登校をしています。元気になるのをゆっくり待っています」 A子さんの証言からも、事業者が提供するサービスが合わない家庭は存在すること、そして親子関係をひどく悪化させていくケースもあるようだ。また、不登校の子を持つ保護者の不安や焦り、孤立がいかに深刻なものであるかがうかがえる。 このように著しい親子関係の悪化につながりかねないサービスは、不登校支援として適切と言えるのだろうか。不安をあおる行為や口外禁止条項などは、法的に問題はないのか。後編では、こうした疑問について、臨床心理士と弁護士、そして渦中のスダチに話を聞いた。 ※プライバシー保護のため、特定の個人を識別することができる情報を一部置き換えて掲載しております。 (文:長谷川敦、注記のない写真:beauty-box/PIXTA) 関連記事:【後編】教育現場に波紋広がる「不登校ビジネス」、専門家の視点とスダチの主張
東洋経済education × ICT編集部