【前編】「不登校ビジネス」何が問題視されたのか 「わらにもすがる思い」孤立し不安に陥る保護者
当事者に再登校の心理的圧力がかかることを懸念
では、板橋区に公開質問状を提出した市民団体らは、何を問題視したのか。提出団体の1つであるNPO法人多様な学びプロジェクト代表理事の生駒知里氏は、次のように話す。 「私たちがまず懸念したのは、自治体が再登校のみを目標とする不登校ビジネス事業者と手を組むことで、不登校の子どもや保護者に再登校の心理的圧力がかかり、孤立を深めることになるのではないかということでした」 文部科学省は2016年に出した「不登校児童生徒への支援のあり方について(通知)」の中で、「不登校児童生徒への支援は、『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではなく」と言明している。板橋区の「不登校ガイドライン」にも、同様のことが明記されている。 にもかかわらず今回、そうした指針とは異なると思われる事業者との連携が取り沙汰されたため、「区は本音では再登校を望んでいるのではないか」という不安感を保護者や子どもたちに抱かせてしまったのでないか、と生駒氏は言う。 ただ前述のとおり、同区は後日、不登校支援の方針は変わらないことを明確に述べており、この懸念については払拭される形となった。 生駒氏は、今回の一件で全国の自治体が外部との連携に対して萎縮しないことを願っている。 「すでに取り組んでいる自治体もありますが、不登校への対応としては、誰もが安心して通える学校づくりと共に、多様な学びの場や居場所の提供を同時に進めることが重要です。そのためにも官民の連携は今後も必要であり、自治体は民間事業者と連携するうえで、監査なども含め公正な基準を作るべきでしょう。また現状、制限付きの支援も少なくありません。例えば教育支援センターでは、小学生は送り迎えが必要だとか、自学自習ができない子は受け入れないなどのケースが多いです。そのため、支援の拡充に当たっては、当事者である子どもや保護者の声を反映してほしいと思います」
「自分に責任がある」と追いつめられる保護者
生駒氏たちのグループでは、公開質問状の起案・賛同団体の会員を対象に、不登校支援をうたう事業者から被害を受けたと感じた当事者の声を集めるアンケートも実施した。すると、さまざまな事業者に関する体験談が寄せられたという。 生駒氏たちが気になったのは、不登校の原因を親子関係に求める事業者がほかにも存在したことだ。 「不登校の子を持つ保護者の多くが『原因は自分にあるのでは』と自身を責めます。しかし文科省の通知にもあるように、不登校の要因・背景は多様であり、不登校はどの子どもにも起こり得ること。そんな中で親子関係に強く原因を求める論理は、『自分に責任があるのでは』と悩む親をさらに追い詰めます。また原因や責任が保護者のみに押しつけられることにより、社会や学校のあり方を問い直す動きが置き去りにされる恐れもあります」 また、サービス料金の幅は広いが、高額な設定の事業者も少なくない。 「数十万円の支払いを求められるケースも珍しくありません。しかも、高額なお金を投じてサービスを受けたものの、『子どもも私も不自然な関わり方やさまざまな禁止で疲弊し、子どもは壁に穴を開けるほど暴れたりもしました』など、子どもの状態や家族関係がかえって悪化したという声が少なからず届いています」 このほか、「支援内容は脅しや洗脳のように感じた」「サービス料を振り込むまでは親身に話を聞いてくれたが、支援が始まると提供メソッド以外の考え方は受け入れてもらえず疑問も言えなかった」といった支援内容への違和感も散見されたという。 また、契約前の説明の際に「夫と相談してから判断したい」と答えたところ、丁寧だった先方の態度が豹変し、「シングルマザーでも1人で決めることができている。そんなことではお子さんは、ずっと不登校のままですよ」と不安をあおられ、契約を急かされるような対応をされたという回答もあったそうだ。