女性どうしの"ふうふ"に子どもは「幸せ」 日本では認められない同性婚、カナダに移住した"家族"
子どもに自信持ってほしい 学校行事は2人の母で
その時期に松本さんを救った人がいた。松本さんがスタッフとして加わるLGBTQ+研修会で出会った熊本県内の小学校の校長を務める女性だった。松本さんは、「子どもがいじめられるかもしれないから、周囲に明かせない」と悩みを打ち明けた。すると校長は「子どもには絶対に隠し事をしたり、させたりしないでください」と言われたのだ。その言葉は松本さんにとって「目からウロコ」だった。 子どもたちには生まれてきたことに自信を持って生きてほしい。それ以降、松本さんは保育園や小学校の先生・保護者、そして自分の子どもたち自身にも真実を包み隠さず、丁寧に伝えていくようにした。 保護者参観やPTA活動にはノックさんと2人で参加し、“顔の見える関係”になれるよう心がけた。松本さんは「普通だったらしなくてもいい努力が多かったかもしれない」と、当時の子育ての緊張感を振り返るも、すべてが子どもたちのために過ごした「楽しい時間だった」と噛みしめるように明るく答えた。
笑顔の日々も 拭えなかった家族離散の不安
2人の努力の甲斐もあって、子どもたちは熊本でたくさんの友達ができた。しかし、松本さんの心の奥にはずっと不安が残っていた。ノックさんの在留資格の問題だ。 同性婚が認められているカナダでは法的な“ふうふ”として認められているため松本さんはカナダの永住権を得られ、子どもたちは血のつながりのないノックさんとも親子関係が認められている。しかし、同性婚に関する法律のない日本ではノックさんは、松本さんと子ども2人にとって他人なのだ。 松本くみさん 「もどかしかった。彼女は就業ビザで日本に滞在していたので、一定程度額以上の仕事を得てビザを更新し続けないと日本にいられないから」。 いつビザが切れてしまって子どもを残して一人で国外退去になるのか…。周囲にも認められ、笑顔の絶えない暮らしの中には、常に家族がバラバラになる日が来るのではないかという恐怖が頭から離れることはなかった。 松本さんは「安心して家族4人で一緒に暮らしたい」。そして「人種や性についても多様な人たちに出会う機会を持ってほしい」と考えた。そして長男のりゅうさんが中学校に進学するのを機に、2024年春からカナダに移住した。移住して12月で半年になるが、ノックさんとの関係が「法律で認められている」ことが日々の安心につながっていると感じている。 子どもたちは現地の学校にも慣れ、友達もできたようだ。カナダの学校は出身地もさまざまで、セクシュアリティについてオープンに話している生徒や、教師もいる。りゅうさんと長女のみかさんも、「うちにはお母さんが2人だよ」と伝えている。