「また落ちてしまった…」53歳で司法試験に合格したノンフィクション作家がぶつかった「最初の壁」
<ノンフィクション作家で、開高健ノンフィクション賞受賞者の平井美帆氏。このたび、7年に及ぶ「死闘」の末、司法試験に合格した。なぜ40代半ばで司法試験合格を目指したのか。最難関の試験にどうやって合格できたのか。全てを赤裸々に明かすルポの第三回――。> 【マンガ】夫の死後、5200万円を相続した家族が青ざめた…税務署からの突然の“お
受験験資格を得るためにロースクールへ
司法試験の受験資格を得るためには、司法試験予備試験(「予備試験」)に合格するか、法科大学院を修了する必要がある。私は当初、予備試験経由にしようと思っていたが、予備試験に合格するには、短答式試験、論文式試験、口述試験のすべてに受からなければならない。 短答はマークシート方式の択一問題で、法律科目(憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法)と一般教養科目がある。 ところが、第一関門の短答でつまずいてしまった。法律科目はある程度点が取れるようになっても、「一般教養」で点が取れない。一般教養とは名ばかりで、社会常識などではなく、国公立大学の大学入学共通テストのような内容である。 〈論文の勉強もしなければならないのに、短答合格のためには法律科目だけで点数を稼がなくてはならない。それには膨大な時間を割かなければならないし、たとえ短答に受かったとしても、次の論文で落ちてしまう。このままではいつ、司法試験の受験資格を手に入れられるかわからない……。それに、同じ目標を持つ友人も欲しい。〉 2年間の孤独な図書館通いにも辟易していた私は、働きながらロースクールを卒業して、司法試験の受験資格を得ることにした。 日本大学法科大学院の夜間の既習コースに入学したのは、2020(令和2)年春のことだ。折しも、新型コロナウイルスの感染拡大から、初の緊急事態宣言が東京で発出された時期だった。 オンライン授業の初日、先生は出欠確認をし終えると、次々と生徒を名指しで当てて、質問を重ねていった。 〈え、ちょっと待って。当てられるの?〉 ソクラテスメソッドと呼ばれる質問形式を知らなかった私は、面食らった。しかも、先生は早口だし、授業が進むスピードも速い。 〈このままではクラスの落ちこぼれになってしまう……。〉