「どうせ年金はもらえない」年金不信はいつどこから生まれた!? 専門家の見解
年金不信を払拭できないのはマスコミのせい!?
積立方式が支持されたことも含め、2000年代に急速に広がっていった年金不信。そこから約20年経つ現在も、若者に不信感が引き継がれている理由はなんだろうか。 ネガティブな言説しか信じられなくなってしまった上の世代の影響が大きいのではないかと、玉木さんは考える。 「バブル崩壊で次々と企業が倒産していくだけでなく、90年代から2000年代は地下鉄サリン事件や阪神淡路大震災、リーマンショックなどもあり、メンタルを病んでしまう人が本当に多かった。そうするとなかなかポジティブな言説を受け入れられなくなるんですね。そして90年代から2000年代にかけて親となった人の子どもが、今の2、30代です。親の話を聞いているうちに、無意識のうちに年金にネガティブなイメージが作られていった側面があるのでは」 玉木さん自身は、日銀を経て、年金積立金の運用を行うGPIFにも勤めた経歴だ。年金積立金とは、現役世代が収めた保険料と国庫(税金)で年金の支払いをし、残ったお金を積み立てたものを指す。 今より少子高齢化が進んだ将来の不足分を補うために、政府は年金積立金の運用をしているが、玉木さんは「長期的な観点から運用を行う年金積立金の運用状況を、国民に理解してもらうことの難しさも感じている」という。例として、四半期ごとの積立金の運用報告を新聞社がどのように報じてきたかを挙げた。 「4半期ごとの積立金の運用成績が赤字か黒字かで、報じられ方が全然違います。現在の積立金の総額は約250兆円ほどで、4半期ごとの運用成績は10%円安になると約12兆円ほど赤字、10%円高になると約12兆円ほど黒字になりますが、10%程度の為替変動は頻繁に起こっていることです。ですので『GPIFの報告は累積の収益で見てほしい』と思っていますが、赤字のときには大きく報じ、黒字のときにはその半分にも満たない文字数で報じるのが定石になっています。リーマンショックやコロナ禍が顕著でしたが、それによって読者は『年金積立金はどうせ当てにならない』と、また年金への不信感が高まるわけです」 公的年金は大半が国庫負担と保険料から賄われており、積立金から得られる財源は1割程度だが、実際のところ2024年の財政検証では2019年の財政検証での見通しから約70兆円増という結果が報告されている。 ネガティブな内容を積極的に取り上げるのは、メディアの主な読者層がバブル崩壊を経験した中高年以上であり、彼らに受け入れられやすい発信をしなくてはいけないという呪縛によるものではないかと指摘する。 「ただ、今回の財政検証の報じ方などを見ても、報道の空気はここ10年ほどでだんだん変わってきているように感じています」と玉木さん。実際、検証の報告を受けて、年金の給付水準が向上していることや、若い世代ほど年金が増える見通しと報じたメディアは少なくなかった。