井上尚弥の父が語るーラスベガス衝撃KO勝利の真実
「膝を使いながらボディワークでパンチを殺そう。集中よ、集中。丁寧に、丁寧にね」 この試合で真吾トレーナーは「ボディワーク」という言葉を繰り返し口にしている。 「ブロック(ガード)の意識が強くなり、体が棒のようになってしまうと、相手のパンチを体で受けることになります。そうなるとパンチが効いていなくても、打ち込まれているというイメージをジャッジに強く与えることになりますよね。膝を使い体の角度を変えながら、ガードをすれば、相手のパンチを殺せるし、見映え的にもディフェンスのアピールになります」 それは力みを消すためのキーでもあり、無駄にポイントを失わないための細心の注意だったのである。 試合を決めたのは2発の“神技カウンター“である。 井上は5ラウンドから作戦を変更。プレスを弱めてマロニーに誘いをかけた。6ラウンドに一度目のダウンシーンが訪れる。マロニーの左のダブルのジャブの2発目のパンチに合わせた左フックの“神技カウンター“である。ダブルのパンチには、カウンターのリスクを避けるという意図があるが、その利点を覆す、まったく予期せぬパンチにマロニーはダメージを受けたのだ。 しかも、試合後、井上は、「左ジャブをダブルでつっこんでくる癖を勉強していた」と言った。それは意外な言葉だった。これまでの井上は、事前に映像を徹底研究することよりも、リング上の研ぎ澄ませた“五感”での対応力を大事にしてきた。 真吾トレーナーが説明する。 「自分も尚も相手の映像は流して見る程度。ただ、ここだけは気をつけようというところだけをチョイスしてイメージします。今回、尚がいつもよりも映像の研究をしたか、どうかはわかりませんが、ある程度のレベルにある選手に対しては確認の仕方は変わってきます」 一発目の左のフックは「流れの中で瞬間的に出たパンチ」だという。 「マロニーだからと特別にやったものではないんです。毎試合、毎試合、練習しているもの。確かにマロニーはダブルでジャブを打つ機会が多く、そこに癖はありました。いつも“より”ということはあったのかもしれないが、その練習の中で、どんどん引き出しが増え、試合の流れの中で、尚が瞬間的に判断して自然に出たパンチです。いろんな練習をしているからこそ、そういうものが出せるんです。ただ最後の右だけは、かなり練習したパンチでした」 井上は、常にテーマを持ち、昨日より今日、今日より明日と、練習の質の向上を日々のトレーニングで追い求めている。その結果、“引き出し”が増え続け、試合で井上が持つ類まれなるリング上での察知力、判断力、対応力と合致。KOパンチして具現化されたのだ。