井上尚弥の父が語るーラスベガス衝撃KO勝利の真実
4ラウンドが終わったインターバルに不思議なやりとりがあった。 「ポイントは?」 この4ラウンドこそ、ジャッジ2人がマロニーにつけたが、1から3ラウンドまでは全員がフルマーク。ポイントで不利なところはまったくなかったのにもかかわらず、井上がポイントを確認したのだ。 真吾トレーナーは、「ポイントは大丈夫だよ」と返したが、なぜ尚弥が、そういう問いかけをしてきたかは、わかっていたという。 「自分と尚だけが感じたものかもしれませんが、1、2ラウンドはめちゃ動きが硬かったのでビックリしたんです。”硬いよ、力んでるよ、やわらかく行こうよ”と途中で話しました。本人も、それがわかっていて、もちろん、冷静さは失っていなかったが、いつものような冷静さがないまま、あそこまでのラウンドを戦っていたんでしょうね。しかも、マロニーが非常にディフェンシブで、パンチが当たってはいるんですが、思い通りには当たっていないというのもあった。それで確認のため聞いてきたんだと思うんです」 真吾トレーナーは、昨年11月のWBSS決勝のノニト・ドネア(フィリピン)戦の序盤との対比をした。 「たとえば、ドネア戦の1、2ラウンドはパーフェクトの動きでした。流れるようにドネアのパンチを外して、合わしてパンチを打てていた。流れる攻防です。それに比べると、今回は力んでいました」 なぜか? 理由は明確だったという。 「初めてのラスベガス。今度も1ラウンドでKOか、というようなことも聞かれるし、モンスターはいったい何ラウンドで倒すんだ?というようなニュースも自然と目につきます。気にしていなくても、どうしても頭に入りますよ。“この試合でインパクトを残さないといけない”、”期待に応えたい”という思いが、どこかに生まれてしまい、“プレッシャーを早くかけてやる”と、自然と力みが出る。新型コロナの影響での1年のブランクというより、理由はそこです」 ディフェンス技術の高いマロニーを1ラウンドで秒殺するのは至難の業。だが、モンスターへの幻想が高まり、井上への早期KOの期待感がメディアにはあふれた。知らないうちに脳裏に刷り込まれ、それが力みにつながり、1、2ラウンドはベストではなかった。3ラウンド以降は、通常モードに戻っていくのだが、自らを冷静にする意味でのポイントの確認だったというのである。 このラウンド間に真吾トレーナーは、こうも念を押した。