酸素はどこから生じたのか?先カンブリアの生物が起こした一大ミステリー
ホット・トピックとしての地球史における先カンブリア代酸素濃度の研究
しかし非常に限られたデータしかなく一見不可能と思われる条件に直面して、チャレンジ精神を発揮するのはサイエンティストとしての本能なのかもしれない。何かしら知恵をしぼり新たな発見や研究方法を生み出すことは、先カンブリア代の生物進化と「酸素濃度の変遷史」―非常に重要なテーマだ―絶えずなされ続けてきた。実際、新しい研究も次々となされている。私もここ1ヶ月ほどの間に、いくつか研究論文がメジャーな学術雑誌に発表されるのを目にした。(そのためこのテーマについて改めて、ここにまとめてみることにした。) 例えば先に紹介したZerkle等(2017)は、酸化還元反応の具体的な仕組みを23.1億年前の海生堆積岩のサンプルにおいて分析した。窒素の同位体「(15N/14N)」という手法を用いて分析したデータによると、GOEを引き起こした生物は、酸化の放出に伴う窒素成分の大量発生をたくみに利用して多様性を遂げたという仮説をたてている。GOEの期間に起きた大量の酸素放出現象は、やはり特定の生物グループの多様性(例えばプランクトンや初期の真核生物など)と密接な関係にあると考えてまちがいあるまい。その痕跡は直接の化石がなくても化学成分の分析によってある程度の推測が立てられるようだ。 Danies等 (2017)は、GOEの後の約15億年近く続いていたと考えられている「低酸素濃度の現象」の謎に更に踏み入っている。生物の死骸によって蓄積された有機炭素(Organic carbon)のデータを化学的に分析したところ、地殻移動(ウェゲナーに関する記事参照)と(風雨や化学反応による)岩石の浸食が、地球規模での酸素濃度の低下の原因だったという結論を付けている。この現象は植物が登場するまで続いたとも結論付けている点が非常に興味深い。 Daines SJ, Mills BJW, Lenton TM (2017) Atmospheric oxygen regulation at low Proterozoic levels by incomplete oxidative weathering of sedimentary organic carbon. Nature Communications 8:14379. doi:10.1038/ncomms14379