酸素はどこから生じたのか?先カンブリアの生物が起こした一大ミステリー
ここであらためて酸素について少し述べておきたい。今私がここで取り上げているのは大気中の「酸素分子(Molecule)」のことだ。ご存知のように化学記号でO2と表される。現在の地球の大気全体において、約20.8%を占めるとされる。(ちなみに一番多いのは窒素で約77.1%にあたる。残りはわずかな%だがアルゴン、二酸化炭素、ヘリウム、オゾンなどがある。) 一方、地球全体のスケールでみてみると、酸素原子(アトム)自体はその99.5%以上が岩石に含まれている。大気中の酸素原子は―例えばO2やCO2(二酸化炭素)、O3(オゾン)といった「分子」で構成されている―わずか0.5%弱にすぎない。 しかしこうした岩石に大量に含まれる酸素原子が、直接O2に変換されて大気中に放出されることはない。(宇宙においてもO2の形でまとまって存在するには、惑星内において大気や気温など特定の条件がそろわないかぎり、まず存在しないと考えられている。) 果たしてどのようにして気体としてのO2が、この地上に放出されたのだろうか? 今のところ、この現象は地球上、宇宙上、見回して一つの要因しか知られていない。「光合成を行う生物」だ。
酸素はいつごろ地球上の大気に生じたのか?
わざわざことわるまでもなく、現在この地球には豊富な酸素が存在する。プールの水底深くに潜り、水面に顔をのぞかせたその瞬間、我々は大きな鯨のように大きく息を吸いこむ。普段の運動不足を解消すべくジョギングなど数ヶ月ぶりにはじめてみれば、ぎしぎしした肺が、酸素分子の粒を必死に吸収しようと、きしみをたてる。テストを受ける直前の受験生の方は、一度大きく深呼吸をして集中力を高めるかもしれない。 ありがたや酸素。しかしこの酸素だが、地球の誕生時―今から約46億年前、大気中に存在していなかった事実はご存知だろうか? そして地球史の約半分に当たる期間―20億年以上だ―酸素はほとんどなく、先カンブリア代の初期に実は二酸化炭素のほうが多かった時代さえあった。(「ストロマトライトの発見(下)」の図1を参照) 酸素は果たしていつ頃、どのようにして地球の大気に現れたのだろうか?先週学術雑誌NATUREに(オンラインとして)発表されたばかりの別の研究論文によると、約24億年前という記述がある(Zerkle等2017)。 Zerkle, A. L., S. W. Poulton, et al. 2017. "Onset of the aerobic nitrogen cycle during the Great Oxidation Event." Nature. そして初めての酸素の出現に伴い、すぐに「大量のO2放出現象」も(岩石などからのデータをもとに)起こったであろうと推定されている。約21.5億年から20.8億年前の間に起きたとされる「The Great Oxygenation Event」(略してGOE;「大量酸素放出現象」の意)は、地球史にさん然と輝く一大事だ。その詳細は後述するようにまだまだ研究の余地がたくさん残されているが、以下の点で大まかに研究者の意見は一致しているようだ。