戒厳令、大統領を弾劾、そして逮捕状……政治不安でウォン安の恐怖に直面する韓国
韓国でウォン安が止まらない。戒厳令、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾、さらには大統領への逮捕令状発行と政治不安が深まる一方だからだ。韓国観察者の鈴置高史氏は一刻も早く収拾しないと、再び通貨危機に陥ると警告する。 【画像】「非常戒厳令」から加速…韓国が直面する「ウォン安」 ほか
ジリジリと減る外貨準備
鈴置:昨年12月3日の非常戒厳の宣布が韓国の経済危機を呼んでいます。同日、1ドル=約1402・0ウォンだったのが、2025年1月6日午後3時30分には1468.7ウォンへと4.8%ほど、切り下がりました。行方の見えない混乱を嫌気してウォンが売られているのです。 さほど下がってはいないように見えますが、韓国銀行が外貨準備を使って必死でウォンを買い支えているからです。その証拠に2024年12月末の外貨準備高は4156・0億ドルで、2023年末の4201・5億ドルと比べ45・5億ドル減らしました。 2024年11月末と比べると、2・1億ドル増でしたが、中核を成す有価証券は3666・7億ドルと57・2億ドルも減りました。年末を控え市中銀行が自己資本比率を上げようと韓国銀行への預金を60・9億ドル増やしたため、かろうじて外貨準備の総額を維持できたに過ぎません。 有価証券が11月末と比べ減った分――60億ドル弱が戒厳令によるウォン安を阻止するための介入に使われた計算になります。
年末ベースで見た韓国の外貨準備高は2021年の4631・2億ドルが史上最高でした。それ以降は韓国銀行は通貨安を是正するためウォン買いに出て外貨準備がジリジリと減っていた。それに「非常戒厳令」が追い打ちをかけたのです。
相当部分は借用書?
さらなる問題があります。今現在、本当に4156億ドルの外貨準備があるのか、疑問を持たれるからです。韓国銀行は国民年金基金との通貨スワップを結んでいます。 年金基金が外国通貨建ての債券を買う際、ウォンをドルなど外貨に替える必要があります。この際、市場で大量に替えるとウォン安を引き起こします。 そこで市場を荒らさないために韓国銀行の手持ちのドルと交換することにしたのです。限度額が定められていまして、2014年12月に500億ドルから650億ドルに引き上げました。 妙案のように見えますが、マーケットの信任という意味では危険な手法です。ウォンが危機に陥った際、市場は「外貨準備高のうち、相当部分――最大650億ドルは年金基金に貸し出していて、通貨介入には使えなくなったな」と見なすからです。今がまさにその時です。