戒厳令、大統領を弾劾、そして逮捕状……政治不安でウォン安の恐怖に直面する韓国
「我々に民主主義は無理」
――この声は泥沼で戦う政治家に届くでしょうか? 鈴置:届くのは容易ではありません。勝てば権力を握れるけれど、負ければ牢獄に送られるのです。ウォンが売られまくって通貨危機に陥ろうと、それは「政敵のせい」なのです。 憲法裁判所の裁判官任命に関しては昨年末、当時の大統領代行だった韓悳洙(ハン・ドクス)首相が拒否したことがあります。これに怒った野党が首相も弾劾したのですが、大統領と首相の相次ぐ弾劾訴追に嫌気して株も為替も下がりました。 すると野党第1党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表がすかさず「株安もウォン安も韓悳洙首相のせいだ」と非難しました。 1987年までのいわゆる軍事独裁時代、韓国人に「新聞を検閲するなんて、共産圏と同じではないか」と聞いたみたことがあります。多くの人の答は「妥協のできない韓国人には日本のような民主主義は無理。強い力で引っ張っていくしかない」でした。 韓国の民主主義のもろさに関しては『韓国消滅』第2章第2節「半導体を作る李朝」をお読みください。見出しからも分かるように、分裂の激しさは李朝以来の宿瘂なのです。 鈴置高史(すずおき・たかぶみ) 韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。 デイリー新潮編集部
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