戒厳令、大統領を弾劾、そして逮捕状……政治不安でウォン安の恐怖に直面する韓国
日本にスワップ増額を要請か
――また、スワップを発動してくれ、と日本に泣きついてくるのでしょうか? 鈴置:その前に米連邦準備理事会(FRB)に「FIMAレポファシリティ」の発動を依頼すると思います。韓国銀行が管理する米国債を担保にドルを借りる仕組みです。 コロナ発生時に米国が各国と結んだ通貨スワップを終了するに伴い導入したやり方で、韓国は650億ドルまで借りられることになっている、と報じられています。 日本の通貨スワップはその次の手でしょう。期間は2026年12月までですが、限度額が100億ドルと少ない。韓国が増額を頼んでくる可能性があります。ウォンが本格的に売られたら、100億ドルなどほんの1週間程度の介入資金にしかなりませんから。 韓国では「マジノ線は1500ウォン」と言われます。それ以上ウォン安に振れれば、普通の人まで手持ちのウォンをドルや円に替えようと殺到し、韓国銀行は外貨準備ではウォンを買い支えきれなくなる、との観測です。 そもそも米韓金利差などで2024年11月初めには1400ウォン台に乗せ、IMF危機の1965ウォン(1997年12月23日)と、国際金融危機の1570・30ウォン(2009年3月2日)に次ぐウォン安水準となっていたのです。そこに政治不安がとどめを刺しかけています。
通貨マフィアの必死の防衛
12月31日の閣議で、大統領権限を代行する崔相穆(チェ・サンモク)経済副首相兼企画財政相が、国会で選出した憲法裁判所の裁判官3人のうち2人を任命すると発表しました。憲法裁判所の裁判官は与野党の合意を経て任命するとの慣例を破るものでした。 これで尹錫悦大統領に対する憲法裁判所の審判が可能になりました。与党「国民の力」の反対を押し切っての決断ですが、崔相穆代行とすれば通貨を守りたい一心だったのでしょう。 もし、裁判官を任命しなければ野党から自身が弾劾されて経済副首相が不在になる。それを見たマーケットは不安感を強め、ウォンの防衛線が一気に崩れると危惧したと言われています。 韓国銀行の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁も1月2日の演説で崔相穆代行の政治決断に支持を表明しました。政治家たちが泥沼の抗争を繰り広げる中、通貨マフィアが必死でウォンを守っている格好です。 ――泥沼の抗争に警告は起きないのですか? 鈴置:起きています。政治記者出身のコラムニスト、ユン・テゴン氏は朝鮮日報に寄稿した「[朝鮮コラム]崔相穆と趙兌烈(チョ・テヨル)はなぜ、反旗を翻したのか」(1月3日、韓国語版)で、以下のように書きました。 ・危機のきっかけとなった非常戒厳が宣布された国務会議の現場で、最も強く反対した2人が崔相穆・経済副首相兼企画財政相と趙兌烈・外交部長官だったという。 ・世界10位圏の経済大国、全世界の192カ国でそのパスポートさえ持っている人にはビザなしで入国を許される国、半導体やミサイルからラーメンとKポップまで百貨店のようなラインアップで世界を魅惑する国、民主主義と産業化の両面の成就で尊重される国だが、輸出と為替が安定的に維持されなければやっていけない国、韓米同盟をはじめ自由民主主義の先進国とスクラムを組んでこそ安保と繁栄を守れる国が大韓民国だということを最も実感しているのがこの2人である。