米シリコンバレーバンク破綻で状況一変 FRB利上げは終わる?
シリコンバレーバンクなどの米銀行の突然の破綻は金融市場にも大きな波紋を広げています。そんな中で、FRB(連邦準備制度理事会)の利上げの見通しにもさまざまな見方が出ています。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【写真】“一枚上手”だった日銀 今後の金融緩和は? 住宅ローンは? 政策修正めぐる5つの「Q」
一部では3月FOMCでの利下げ予想も
米国の銀行(シリコンバレーバンク及びシグネチャーバンク)の電撃破綻を受けてFRBの金融引き締めをめぐる見方は劇的に変化しました。この騒動が生じる前の3月9日時点では、3月FOMC(21~22日)における0.5%ポイントの利上げが相応に意識され、政策金利の最終到達点(ターミナルレート、0.25%ポイント刻み)は5.75%程度まで高まっていましたが、そうした状況は一変し、市場参加者は3月FOMCにおける0.25%ポイント利上げすら疑問を持ちつつあります。 市場参加者の政策金利予想を反映するFF金利先物は3月FOMCにおける0.25%ポイントの利上げを8割弱の可能性でしか織り込んでいません(15日日本時間朝時点)。一部では3月FOMCにおける利下げ予想もでています。 FRBはインフレ退治と金融不安抑制の板挟み状態に陥っています。インフレ沈静化の確証が不十分な中、昨年来の急速な利上げに適応できなかった企業(銀行)の悲鳴が轟いており、「利上げ継続・利上げ停止・利下げ」のどの選択肢を採っても一定の犠牲は避けられそうにありません。
インフレ懸念的には安心感ある消費者物価
そうした中で本日発表された2月の米消費者物価(CPI)は予想通りインフレのしぶとさを印象付けたとはいえ、FRBが抱くインフレ懸念を強めるほどではなく、ある意味で安心感のある結果でした。 総合CPIは前月比+0.4%、前年比+6.0%となり1月から小幅に減速しました(1月:前月比+0.5%、前年比+6.4%)。食料品が前月比+0.4%へと減速し、エネルギーは前月比▲0.6%と2カ月ぶりに低下しました。これらを除いたコアCPIは前月比+0.5%(小数点2位は0.45%)、前年比+5.5%と市場予想に概ね一致し1月と同程度の伸びでした。 インフレの基調を把握するためにコアCPIを「財」と「サービス」に分解すると、コア財は前月比▲0.0%、前年比+1.0%でした。原材料価格が落ち着きサプライチェーンも正常化する中で、中古車価格が前月比▲2.8%と8カ月連続で低下するなど、多くの品目が落ち着きつつあります。耐久財という広いくくりで見ても前年比▲1.8%とマイナス圏にあります。 他方、コアサービスは前月比+0.6%、前年比+7.3%となり前年比上昇率は加速しました。CPI全体のうち3割程度の比重を有する家賃が前月比+0.8%、前年比+8.0%と強く伸び全体を押し上げた形ですが、直近の実勢相場に対して1年程度の遅効性を有するCPI基準の家賃は参考値程度に過ぎないため、家賃を除いたコアCPIに目を向けるとこの尺度では前月比+0.2%、前年比+3.7%まで鈍化しています。 大きく見ればインフレは沈静化傾向にあると言えますが、ここからFRBの目標である2%以下の領域に向けて一段と低下するには賃金インフレの終息が必須条件となるでしょう。