賃上げ動向は日銀の想定上回る? 新総裁のもと「超緩和」は終了か
日銀の次期総裁の名前が取りざたされる中、現在の金融緩和政策の行方が注目されています。最新の賃金動向を踏まえて、第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【グラフ】“一枚上手”だった日銀 今後の金融緩和は? 住宅ローンは? 政策修正めぐる5つの「Q」
所定内給与1.8%増、企業は賃上げに寛容に?
2月7日に公表された12月毎月勤労統計(速報値)は、日銀の超緩和的な金融政策の終了を正当化する結果でした。ここでいう超緩和的とは、10年金利を「ゼロ%程度」に誘導するイールドカーブコントロール(YCC)を示します(短期金利はマイナス0.1%)。 現金給与総額は前年比+4.8%と急増しました。特別給与(ボーナスや一時的な手当て)が+7.6%とやや大きめの伸びを示したことが一因ですが、所定外給与(≒残業代)が+2.9%と底堅く推移する中、最重要項目の所定内給与(≒基本給)が+1.8%へと伸びを高めたことが強く効きました。所定内給与は2020~21年に停滞した反動によって前年比伸び率がやや誇張されていること、確報で下方修正される可能性があること、これらに注意が必要ですが、人手不足が深刻になる下で、企業経営者が労働力確保のため、固定費である基本給の引き上げに対して寛容になっている様子が透けて見えます。 最近の賃上げ報道などから判断すると2023年度入り後の賃金動向は、3月中旬とされる春闘の結果判明を待たずして、ある程度の期待が持てる状況になってきました。目下の賃上げ動向は、日銀の想定を上回っているのではないでしょうか。
賃金上昇の持続性に懸念もYCCは終了か
日銀(黒田総裁)は、金融緩和の終了には賃金上昇を伴う物価上昇が必要であると繰り返してきました。2%の物価目標に整合的・理想的な名目賃金上昇率は「3%」、つまり実質賃金が1%上昇する姿です。ただし、現在の超緩和的な金融緩和の度合いを少し調整するという視点では、この+1.8%という数値は十分な伸び率に思えます。現時点で次期日銀総裁は植田和男氏が有力と伝わっており、その政策スタンスは不透明な部分がありますが、最近の賃上げ動向に鑑みると、誰であろうとイールドカーブコントロール終了(長期金利操作を撤廃)が近づいている印象です。