“白壁の町”岐阜・飛騨市でディープな「古川祭」と「朴葉寿司」の秘技に迫る【第3回】
「三寺めぐり朝市」で、ゆるやかにつながる人生の大先輩たち
古川祭が長年の伝統を守り、地域の活性化とつながりを深めるのに大切な行事で、酒が好きな人にとっては天国だということはわかった。好き嫌いはあるだろうが、この地域の結束が強いからこそ、お上に言われずとも市民が自発的に「川をきれいにしよう」となるのではないか。都会の「誰が隣に住んでいるのかも知らない」という距離感は、私も含め人とのつながりが面倒な人にとっては心地いいけれど、皆で鯉を川に放そうという発想と行動はなかなか生まれない。 もうひとつ、飛騨市滞在中に人のゆるやかなつながりを感じられる場を見つけた。町の中心街にある「三寺めぐり朝市」だ。商店街が廃(すた)れてしまい、買い物に困った年配の方でも歩いてこられるよう、8年前に市が小さな建物を地域の人々に提供した。いまは50人ほどの地元の人々が会員となり自主的に朝市を運営している。それぞれ育てた野菜や花、加工した商品を毎朝、持ちよって並べて売っている。エゴマ、かぶら漬け、薬草のお茶など、どれも手頃なお値段だ。 レジを担当している会計の漆原照子さんにお話を聞くと、引きこもりがちだった地域のお年寄りたちは朝市がオープンしてから作物を育て始めたり、朝、買い物ついでに集まっておしゃべりを楽しんだりと、外に出る楽しみが増えたという。ときには会員どうしで野菜を物々交換することもある。70代、80代になってもイキイキと働いている人生の大先輩を見ていると、こうした取り組みは都市や地方関係なく、広がってほしいと思う。
「つくって楽しい、食べておいしい伝統料理「朴葉寿司」
さて、今回の旅では、無理を言って朝市を仕切る漆原さんの家で伝統の朴葉寿司(ほうばずし)のつくり方を教えていただくことになった。朴葉味噌は秋に乾燥して落ちた朴の木の葉を拾い、それを皿がわりに味噌を乗せて焼くものだが、朴葉寿司は朴の葉が柔らかい初夏に酢飯を包んでつくる季節のお寿司だ。 朝市がお休みの火曜日、漆原さんのお宅へと向かう。教えていただくのは、漆原さんのほか、朝市の仲間である佐藤澤子さん、福山良子さん、東鈴枝さんだ。それぞれ家で野菜や花を育てている。 「いらっしゃい!」と出迎えてくださったお姉さまたちにさっそく教えてもらう。まず、人の顔がはみ出るほど大きな朴葉を濡れ布巾できれいに拭いて汚れを落とす。10分ほど蒸した鱒(ます)の身をほぐし、切ったひめ竹と地元のブランド米「ミネアサヒ」でつくった酢飯をまぜる。それらを朴葉の上に盛り、フキを甘辛く煮た「きゃらぶき」と「木の芽」(山椒の葉)を載せる。最後に包むようにふんわりと葉を丸め、先をつまようじで留めれば完成だ。