どうなる対日・対中政策? バイデン政権の外交・安保 慶應義塾大・渡辺靖教授に聞く
対日政策は?
――対日政策はどうなっていくのでしょうか。 トランプさんは同盟関係というのは搾取の構造だと思っていたところがあります。不公平だと。そのため、米軍の駐留経費を引き上げるとか言っていたわけで、時にはそれが揺さぶりに近い形になることもありました。しかも、わりと首脳外交というトップダウンの交渉スタイルを望んでいた。 それ対し、バイデンさんは、アメリカにあって中国にないのは世界的な同盟のネットワークのはずなのに、トランプさんはみすみすその重要なアセット(財産)を壊してしまった、という認識です。なので、できるだけ同盟関係は再構築すると思いますし、また下からちゃんと積み上げていこうとする交渉スタイルを用います。 同盟関係で、サプライズ、相手を驚かすということは一番あってはいけないので、そういう意味では安定感もあるし、トランプ政権のときのような予測不可能性というものはなくなると思います。 個別の案件はありますが、日米関係はこれまでも色々な経験がありますし、落としどころを見つけてきた知恵もある。人材もいます。そのため、日米関係そのものは心配していません。 ――懸念すべき点があるとすればどこでしょうか。 中国とどう向き合うかという点。それから中東情勢。そのへんで日米の歩調がずれることがあれば、こっちの方が心配と言えば心配です。 中国に関して具体的に言うと、日本は、アメリカがいくら中国に対して強硬姿勢を貫くとはいってもグローバルな問題を通して、アメリカが中国に譲歩してしまうのではないか、という心配があり、アメリカからすると、日本と中国が経済関係で連携を深めているのではないかと警戒する。 つまり、お互いが対中政策において、少し歩み寄り過ぎていないかという懸念があるのです。そのあたりをどう意思疎通を図っていくか、戦略的につじつまを合わせていくのか、がポイントになると思います。 ――中東に関してはどうでしょうか。 バイデンさんは基本的にイラン核合意に復帰することを目指すと思いますけれども、中長期的に見るとやはりあの地域においての米国のプレゼンス(存在感)を下げていくということが傾向としてあると思います。ただでさえシェールオイルができて中東への依存度が減って、さらにいま再生可能エネルギーだといっているので、より減っていきます。そうなっていくと、いまは安全保障の面で軍事拠点をたくさん設けていますけれども、そこを縮小していくかもしれない。 そうすると、あの地域からのエネルギーに依存している日本からすると、不安要因になるわけです。そこでアメリカに対してどれだけ日本の立場を理解してもらって、日本としての対応を検討していく。そのような課題が出てくると思います。 ■渡辺靖(わたなべ・やすし) 1967年生まれ。1997年ハーバード大学より博士号(社会人類学)取得、2005年より現職。主著に『アフター・アメリカ』(慶應義塾大学出版会、サントリー学芸賞受賞)、『アメリカのジレンマ』(NHK出版)、『沈まぬアメリカ』(新潮社)など。近著に「白人ナショナリズム」(中央公論新社)がある