「ウクライナ和平交渉は“可能”でない上に、“必要”でもない」と歴史人口学者・トッドが断言するワケ
〈〈トランプの保護主義は正しい。しかし…〉トッドが語る米国産業が復活できない理由「優秀で勤勉な労働者の不足はすでに手遅れ」〉 から続く 【画像】英語圏では“禁断の書”に…トッド氏の新刊『西洋の敗北』 ウクライナ戦争が長期化する中、トランプ氏が再びアメリカの大統領に就任する意味とは――。『西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか』(文藝春秋刊)を上梓したフランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッドが、2025年の世界を分析する。
今後、難しくなる米国との付き合い方
――敗北しつつある西洋、特に米国と日本はどう付き合っていくべきだと思われますか。 トッド 非常に難しい質問です。日本は非常に困難な状況に置かれているからです。中国は非常に重要な隣国ですが、大きな問題を抱え、朝鮮半島との関係でも問題を抱えています。日本にとって米国は「パートナー」や「同盟国」というより「主人」や「支配国」です。しかも、約束を守らないという意味で、もはや信頼できない相手です。 これらの点を踏まえて、直観的に日本への提言を述べてみます。「米国による世界覇権」において鍵を握っていたのは、欧州、中東、東アジアという3つの地域です。ここで米国は何をしているのか。緊張を高め、紛争や戦争を引き起こし、そこに「同盟国」というより「属国」と呼ぶにふさわしい国々を巻き込もうとしている。ここで私が日本に勧めたいのは、「何もしないこと」「できるだけ何もしないこと」です。今日、「日本は国際政治にもっと関与すべきだ」という声が聞かれますが、私はむしろ、ある種の「慎重さ」を勧めたい。可能なかぎり紛争を避け、事態をじっと見守るのです。 戦争や中国の経済的台頭の意味は、この「米国一極支配の世界」から我々が抜け出しつつあることを示しています。つまり、「多極化した世界」というロシアのビジョンに近づいている。日本への提言に付け加えるとすれば、先ほどの「慎重さ」を保ちつつ、こうした「多極化した世界」に自らを位置づけることです。もう一つは、「経済問題」以上に日本の真の問題である「人口問題」に集中して本気で取り組むことです。すなわち、適度な移民の受け入れを進めると同時に、出生率を上昇させることです。