トランプ大統領の“絶対に崩れない支持層” 「反エスタブリッシュメント」の波も 渡辺靖・慶應大教授に聞く
接戦を繰り広げる米大統領選。トランプ・バイデン両候補とも、勝っても負けても約7000万人の支持を受けたことになる。特にトランプ大統領はこの4年の間に元側近らから数々の暴露本が出版され、選挙戦終盤には新型コロナウイルスに感染。大きな支持者離れが起きても不思議ではない状況だが、なお善戦できているのはなぜか。アメリカ研究が専門の慶應義塾大学SFC教授、渡辺靖氏は「絶対に崩れない4割の支持者」の存在を指摘する。どういうことだろうか。 【図解】3分でわかるトランプvs.バイデンの争点――次の4年を占う、70代の頂上決戦
――トランプ大統領は従来型の共和党・保守政治家とは異なります。 レーガン氏のような「主流派保守」に比べ、トランプ大統領はかなり従来のカテゴリーや基準からすると「保守」とは呼べないような、ナショナリストに近い側面を持っています。 共和党は自由貿易を推進し、財政規律を重んじる党ですが、トランプ大統領は自由貿易をネガティブに見ていますし、財政規律も関係なく、どんどん赤字が出ても構わないという姿勢です。 ――前回の大統領選(2016年)でも、当初は有力候補ではありませんでした。 そうです。トランプ大統領が4年前に共和党の候補者レースに出たとき、共和党の主流派と激しく対立しました。結局、漁夫の利を得るような形で彼が候補者となりましたが、さすがにヒラリー・クリントン民主党候補には勝てないだろうと見られていました。 ところが、有権者の中ではアメリカ社会を動かしてきたエスタブリッシュメント(既存の支配層)と言われる人々に対して不信感を抱く人が多くいました。この反エスタブリッシュメントのマグマはとても強く、その中で「トランプ大統領」が誕生したのです。
4割の“岩盤”支持者
――トランプ大統領を支持するのはどのような人なのでしょうか。 トランプ大統領自身、「みんなの大統領になろう」なんて夢にも思っていません。白人労働者、福音派とも呼ばれる宗教保守派、ビジネスマン、という3つのコアな支持層を向いて4年間務めてきました。このような支持者は、有権者の4割を占め、どんな暴露本が出ても、スキャンダルがあったとしても、絶対に崩れないのです。 トランプ支持者については、(米決済サービス大手の)ペイパル創業者ピーター・ティール氏が語っているのが一番核心をついていると思います。ティール氏によると、トランプが嫌いな人はトランプの一挙手一投足を真剣に受け取る。しかし、トランプという存在自体は軽く受け取っている、小ばかにしている、と。 ところが、トランプ支持者は、彼の一挙手一投足というのはどうでもいいが、トランプという存在そのものは極めて真剣に受け止めている、と。トランプは変なことも言うし、人格的にもパーフェクトではないけれど、いまのインチキな社会、制度を壊そうとしている。その姿勢は本物で、自分はそこに懸けているのだと。 ――その支持者らは、トランプ政権が成し遂げてきた政策に対してはどう考えているのでしょうか。 もちろん、特定の政策が重要という人もいると思います。例えば、本当に人工妊娠中絶は許せないという人はいますし、トランプ大統領が最高裁に保守派の判事を任命したことなどをピンポイントで支持している人もいます。 ただ、やはりユニークなのは政策の細かい話よりも彼の反エスタブリッシュメントの姿勢に「本物」を見出している人がいるということです。そこはちょっとやそっとのことでは揺るがないでしょう。 また、トランプ大統領を支えたこのような層の思いというのは当面残ります。仮にトランプ大統領が今回負けたとしても、今後共和党から出る大統領候補者はこの層からそっぽを向かれないようにしなければならなくなります。ですから、共和党が一気にトランプ支持者に背を向けて別の路線にいくということはあり得ないでしょう。 ■渡辺靖(わたなべ・やすし) 1967年生まれ。1997年ハーバード大学より博士号(社会人類学)取得、2005年より現職。主著に『アフター・アメリカ』(慶應義塾大学出版会、サントリー学芸賞受賞)、『アメリカのジレンマ』(NHK出版)、『沈まぬアメリカ』(新潮社)など。近著に「白人ナショナリズム」(中央公論新社)がある。