「密を回避」「予想と違った」コロナ禍の聖火リレー 岐阜で聞いたランナーと沿道の声
●城が見下ろす城下町「郡上八幡」
中津川市から多治見市、八百津町を巡った聖火は3日夕、岐阜県中部に位置する郡上市八幡町に到着した。 紅葉の名所でもある郡上八幡城が山上にそびえる奥美濃の城下町で、町の中心を清流の吉田川が流れ、環境省の名水百選の第1号に指定された宗祇水(そうぎすい)も名高い。「水の都」ともいわれる。 夏には400年以上の歴史を持つ郡上おどりが開かれ、町中が会場となって観光客や踊り客でにぎわうが、昨年は町のアイデンティティともいえる郡上おどりがコロナの影響で中止になった。 リレーコースは、郡上市役所から長良川鉄道の郡上八幡駅までのルートで、16人のランナーが走った。
郡上おどりの会場にもなる新町通りでは、藍染の老舗店15代目である渡辺一吉さん(51)が、冬季五輪に3大会連続で出場した籏(はた)修子さん(40)から聖火を引き継いだ。 渡辺さんが店主を務める渡辺染物店は創業430年。郡上で江戸時代から続く藍染の技法「郡上本染」は岐阜県の重要無形文化財になっている。吉田川で行われる「鯉のぼり寒ざらし」は郡上の冬の風物詩だが、この冬はコロナで実施を見送らざるを得なかった。 走り終えた後、渡辺さんは郡上おどりや寒ざらし、花火大会など地元のさまざまな催しが中止になったこれまでの1年を「非常に辛かった」と振り返った。 コロナ禍が続く中での聖火リレーとなったが「人が集まるといけないとか制約を受けていたが、(沿道の人たちは)マスクをし、声援はなしで、拍手と手を振って迎えていただいた。地方にも東京五輪の聖火が回ってきて、みんなにつないでいるということは非常に大切だし、郡上の人も感動したと思う。今回の聖火リレーは地域も勇気づけられた」と地元を走った感想を語った。
先月から始まった聖火リレーをめぐっては、大音量で聖火ランナーを先導するスポンサー車両に対して「お祭り騒ぎだ」などの疑問の声がネット上などで出ている。 郡上市の聖火リレーでも、このスポンサー車両の車列が登場した。聖火ランナーを待っていると、通りの奥から音楽とマイクの声が聞こえてきた。見えたのはランナーではなく、大きなバス型車両だった。 城が見下ろす風情のある城下町の広くはない通りを、鮮やかな赤色や青色に塗装され、電飾で彩られた各スポンサーの車列がゆっくりと近づいてきた。車上のDJが「間もなく聖火ランナーが到着します」「応援お願いします」などと呼びかけ、スタッフがタオルや応援グッズを配ったり、踊ったり、手拍子で盛り上げたりしていた。ただこの日の音量は抑えられているように感じた。 神奈川県から昨年引っ越してきたという八幡町在住の女性(28)は「なんて言ったらいいか」と言葉を探しながら、「ディズニーぽい」と例えていた。 同じ町内から来た中1の女生徒は「車の色やデザインが格好よかった。その方が楽しめる」と違和感はないと話した。一緒に見に来ていた女性(47)は「普通にランナーさんが走ってくるのかと思っていた」と驚いた様子。世界規模のコロナ流行で開催が不透明な五輪については「開かれれば嬉しいが、無理なら仕方がない。選手にとっては気の毒だが」と感染状況への不安ものぞかせた。 スポンサー車両について「予想はしていなかった」という近所に住む男性(82)は「郡上の感染状況は落ち着いているが、油断はできない。ピーク時の半分以下だが土日は観光のお客さんが増えてきたので、ちょっと注意しないといけない」と気を引き締めた。 聖火はその後、高山市につながれ、1日目の日程が終わった。