じつは履いた瞬間は分からない…ほんとうに「良い靴」だけが持っている「驚きの効果」
木型から作るフルオーダー
ーー実際、AYAMEさんの手応えとしてオーダー靴は増えているとお考えでしょうか? 諏訪部:私たちの会社にオーダー靴を作りに来られる方は、初めて作る方がほとんどです。現在、1000足以上の注文を終えたので、約1000人の方ははじめて木型から作るフルオーダーで靴を作ったことになります。AYAMEの一番の特徴としては、やはり個人専用に3Dプリンターで木型を作るという技術です。1つ1つ違う靴を作る事は技術が進み、やりやすくなってきました。さらに、お客様に寄り添ったサービスができればもっとフルオーダーで靴を作られる方は増えるんじゃないかと期待しています。 ーー1000人!? それは凄いですね。 諏訪部:とはいえ、大きな会社がフルオーダー靴を全面に出そうとすると難しいと思います。超大手のスニーカーメーカーとかもカスタムシューズの企画をやっていますが、大規模な商業のラインに乗せるのは大変なことです。色を変えるとか、一部分だけのカスタムをやろうとすると逆に難しい面が出てくるので、私たちは一番上のフルオーダーをできる限り安くやろうということに特化して振り切っています。
痛い思いをして履くべきじゃない
ーーやはり自分でも作ってみたくなりますね。 みやび:パンプスは特にそうですね。私自身、痛い目にあってきましたので、今は自分で作ったパンプスしか履かないです。 諏訪部:先ほど、パンプスやハイヒールは芸術品としての美しさがあるという話が出ましたが、デザイン方向にフォーカスしすぎた靴は、単品で見た時に美しく見えるのですが、履いて歩きやすいかは別になってしまう面もあります。今は男性もパンプスを履いて綺麗に見られたいという方もいらっしゃいます。男性の場合だとそもそもサイズが売っていない事もあり、やはりオーダーしていただいたほうが理想のパンプスに近いものが手に入ると思います。 みやび:パンプスとかハイヒールの形はやっぱり綺麗なんです。ただ、そこで痛みなく履けたら楽しい思い出になるのになと思うわけです。痛みに耐えて履いてるから偉いというわけじゃないと思うので。 ーーそもそも靴は痛い思いをしながら履くべきじゃないということを『靴の向くまま』を読んで改めて感じました。実際、AYAMEさんでパンプスを作られた方が1000人以上いらっしゃるということは、フルオーダーの土壌が出来上がってきているわけですよね? 諏訪部:選択肢のひとつとして、オーダー靴があることは提示できていると思います。靴を買うときって、“しっかりした靴を履きたい”、“気に入ったデザインの靴を履きたい”、“自分の足に合ったものが欲しい”とかいろいろ考えると思うのですが、そこでオーダー靴というのも選択肢のひとつになってきているのかなとは思います。 後編記事【「革靴」は嗜好品になりつつある…いま靴業界で起きている「意外な変化」】では、『靴の向くまま』の担当編集がオリジナル靴を実際にオーダー。靴作りの傾向と対策を聞く。 (取材・文/高畠正人) みやびあきの 福岡県生まれ。マンガ家&イラストレーター。『まんがタイムきららフォワード』(芳文社)でデビュー。代表作に『はぢがーる』、『おにまん』、『なでしこドレミソラ』、『珈琲をしづかに』など。現在『靴の向くまま』が4巻まで発売中。 AYAME:諏訪部梓 学生時代はロボット工学を専攻。10年以上ITコンサルタントとして経験を積んだのち、2019年にオーダーメイド3Dシューズ菖蒲|AYAMEを設立。最先端の3Dプリント技術と靴職人の匠の技を融合したフルオーダー靴作りをスタート。修理付きサブスクなど新しい靴の利用法も提案している。 AYAME:島倉和也 AYAMEの靴デザイン、木型設計、店舗運営の責任者。3Dで木型を設計する方式を開発し、これまでに1000足以上のオーダー靴を制作。 *** 『靴の向くまま』みやびあきの 【4巻まで絶賛発売中!】 靴職人だった亡き母が遺した工房を継いだ結彩。“履き主がいい場所にいけますように”とおまじないをかけながら作る結彩の靴は、誰かの一歩をやさしく包んでいく。靴への愛着が湧くだけじゃなく、思わずオーダー靴を作りたくなる靴職人の物語。
高畠 正人