じつは履いた瞬間は分からない…ほんとうに「良い靴」だけが持っている「驚きの効果」
オールジャンルに精通した靴職人は珍しい
ーーみやびさんはご自身で靴作りを体験するなど実体験を元に『靴の向くまま』を描かれていますが、漫画を描くうえで大変だったところは? みやび:主人公がフリーランスの靴職人なので、どこまで描いたらいいのかなというのは悩んだところです。最初はもう少し年上のキャラクターだったんですが、初代担当から「もうちょっと若い女性にしてください」と言われて、結彩になったんですけど、これがけっこう難題で……。 島倉:若い女の子がこんなにオールマイティにいろいろな靴に精通しているというのは実際のところかなり珍しいですよね? みやび:そうなんです。取材を重ねていくと靴職人の方にはいろいろ専門があって、私の友人はカジュアル靴専門なのでパンプスやスニーカーのことは専門外ということで取材はできず、パンプスの先生からはスポーツシューズやメーカー靴のことは詳しくはわからないと言われました。なので、オールジャンルに精通した靴職人さんって本当に少ないんだなと実感しました。 ーー結彩ちゃんはオールマイティで尚且つ、年齢も若いのでかなり珍しいんですね。 島倉:まず20歳くらいから靴職人を目指す人ってかなりレアなんです。だいたい30歳すぎてから靴学校に通うイメージです。40代、50代になってからはじめるという人も多いです。結彩ちゃんは靴学校でもかなり珍しかったと思います。 みやび:私も浅草にある職業訓練校に取材に行きましたが、社会人経験者の方が多かった印象です。結彩は靴職人になろうと決めたのが早いので、そこから逆算して作品中の年齢を決めました。
しばらく経ってから歩きやすさに気づく
ーー初代担当さんの「若いほうがいい」の一言は作品にかなりの影響を与えていたんですね。 みやび:未熟な方が、成長が描けるのがいい点ですね。それと、靴が完成して履いたときに瞬間に“バーン!”みたいなわかりやすい変化があれば漫画としては描きやすいんですけど、いい靴ってある程度の時間を履いて、ようやくそれまで履いていた靴との違いを認識するんですよね。 ーー確かに作品中でも履いた瞬間に感動があるわけじゃなく、しばらく経ってから本当に歩きやすいことに気づく描写になっていました。 みやび:パンプスとかだと30分くらいでわかるかもしれませんが、紳士靴とかは履いた瞬間はあまりわからないことも多いんです。だけど、改めて今まで履いていた靴を履くと「なんでこんなブカブカの靴を履いていたんだろう?」って歩きづらかったことにようやく気づいたり、1日の終わりの疲れ方が違って気づいたり。 諏訪部:パンプスは痛い部分が解消されたりするので、場合によってはすぐにわかるんですけど、紳士靴だとそうはいかないんですよね。 ーー時間が経たないと実感できないという部分まで『靴の向くまま』は再現してありますよね? みやび:履いた瞬間の変化は漫画にできないなと思ったので、時間経過のない一話完結型の作品にはせずに、作中でも時間が流れている設定にしました。最初はお店を作ったばかりなので納品も早いけど、お店が軌道にのってくると納品もちょっと遅くなっているだろうなとか。最初のエピソードで出てきた人が後半にも出てきて靴を受け取るシーンを入れたり。