「街を世界最先端のインクルーシブ社会に」ーー障がい当事者の提案が生んだ茨城県つくば市の変化 #令和の人権
この4月から、民間事業者に障がい者への「合理的配慮」が義務づけられた。障がいがあっても誰もが等しく参加できる「インクルーシブ社会」の実現に向け、重度障がい者が中心となって政策提言する――。そんな取り組みが続いた茨城県つくば市では、制度の改革が進んでバリアフリー化された商店が増えるなど、街に変化が生まれている。当事者をはじめとする立役者、ともに取り組む街の人々を取材した。(文・写真:柴田大輔/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
障がい当事者による政策提言が実現
「障がいのある子どもが今の普通学校に行ったら、使えるトイレはどのくらいある?」「まずは周囲の意識を変えることじゃないかな」「それを実現させるには費用の負担はどうするのがいい?」 2024年1月のある午前。 つくば市のコミュニティセンター「かつらぎ交流館」を訪れると、にぎやかな話し声が響いていた。街づくりプロジェクト「障害×提案=住みよいつくばの会」の定例ミーティングだ。交流館は、つくばエクスプレスの研究学園駅と終点・つくば駅の中間付近の住宅地にある。そこに、多様な18人の市民が集まった。 電動車椅子を使う人、たん吸引などの医療的ケアを必要とする人、見た目ではわからない障がいのある人。障がい当事者たちだけではない。その家族、支援活動を続けている人、障がい者の問題解決に関心を持つ市議らの姿もある。みんな「障がい」でつながっている。
話し合いの輪の中に、会の呼びかけ人・斉藤新吾さん(48)がいた。自身も進行性の難病による障がいがある。 「障がい者は生活の中でいつも不自由を感じています。そして、『こうすればよくなる』というアイデアをそれぞれが持っている。でも、それを形にできる場はこれまでなかったんです」 会は2018年に発足し、「『要望』から『提案』へ」というフレーズを掲げて活動してきた。斉藤さんはこう説明してくれた。 「障がい者は困っているから、どうしても『今すぐなんとかしてほしい』と要望を市役所の窓口で伝えがちなんですね。でも、要求だけでは解決につながらない。であれば、『こうすれば簡単に解決できますよ』という提案として働きかけるほうがいい。そう思ったんです」 会が手掛けるのは、障がい者支援の「要望」「お願い」ではなく、政策提言なのだという。その提言も、障がい当事者のアイデアをもとに練り上げたものだ。2020年のつくば市長選と市議選では、事前に2年以上を費やして6つの提案をまとめ、全候補者に公開質問状として投げ掛けた。それぞれの回答は選挙期間中にウェブサイトで公表。選挙後は、回答通りに活動してくれているか、市長や各議員の行動をチェックすることも続けている。 「そうした活動の結果、6つの提案のうち4つが実現しました」と斉藤さんは言う。 その一つが、働きたい障がい者に対し就労時に介助者を派遣する仕組みだ。以前は、通勤時や就労中に公的な介助派遣制度を利用できず、障がい者は自費で介助者を手配するほかなかった。働きたいのに、お金がなければ働けない。2020年の制度改正でその歪んだ構造は是正され、就労時の介助派遣は可能になったが、制度を実施するかは各自治体の判断に任された。政策提言の時点で、茨城県内の自治体はどこも制度の実施に踏み出していなかった。そうしたなか、斉藤さんたちは市と交渉し、2022年度からの実施にこぎつけたのだ。