「街を世界最先端のインクルーシブ社会に」ーー障がい当事者の提案が生んだ茨城県つくば市の変化 #令和の人権
多様な子どもが地域の学校に通うことを保障するインクルーシブ教育に詳しい東洋大学客員研究員の一木玲子さんはこう話す。 「子どもの頃から普通学校と、特別支援学校や特別支援学級へと子ども同士が分けられる『分離された社会』では、障がい者を見たことがない人がたくさんいます。そのなかで、障がい者が街で生きる姿を見せることの意義はとても大きい。障がい者としての具体的な生き方を示すことで、『この子は自分で生きていけるんだよ』『親とは別人格ですよ』と見せることになる。そんな出会いがなければ、障がい者は単に大変でかわいそうなだけの存在になってしまうんです」
障壁を取り除けば、誰にとっても安心できる街に
2023年、ほにゃらの事務所近くに書店「本と喫茶 サッフォー」が開店した。店主は書籍編集者の山田亜紀子さん(50)だ。 入り口は、車椅子でも出入りしやすいように広げ、店内には手すりやスロープを設置した。改修費用は、斉藤さんらが働きかけたつくば市の「合理的配慮支援事業」による助成金を利用した。山田さんは、この店を障がい者だけでなく、同じ街に暮らすさまざまな背景を持つ人の居場所にしたいと考える。 「合理的配慮は法律(障がい者差別解消法)として存在しますが、日常の中に当たり前に溶け込んでいるのがいいと思ってます。店側に障壁があって利用できない人がいれば、当たり前にそれを取り除く。受け入れるために私たちは何ができるのかを、当事者と一緒に考える街。それは、誰にとっても安心できる街だと思います」
「行動すれば必ず社会は変わる」は、斉藤さんの口ぐせだ。ただ、障がい者だけが動いても社会は変わらないともいう。 「問題に取り組むなかで人とつながり仲間ができて、結果として世の中が変わるのがいい。障がい者が地域での暮らしを実現させても、街が障がい者を受け入れなければ意味がありません。一方、周りが介助者だけでは、社会から障がい者が分離された状態は変わらない。そんな状況を変えるためにも、いろいろな人同士が普通に関わり合うことが大事なんです。みんなで一緒に、よりよいつくばをつくっていきたいですね」 柴田大輔(しばた・だいすけ) フォトジャーナリスト。1980年、茨城県生まれ。写真専門学校を卒業後、フリーランスとして活動。ラテンアメリカ13カ国を旅して多様な風土と人の暮らしに強く惹かれる。2006年からコロンビアを中心に、ラテンアメリカの人々の生活を取材している。Frontline Press(フロントラインプレス) 所属。近著に『まちで生きる、まちが変わる つくば自立生活センター ほにゃらの挑戦』(夕書房)。