「街を世界最先端のインクルーシブ社会に」ーー障がい当事者の提案が生んだ茨城県つくば市の変化 #令和の人権
斉藤さんもこう話す。 「これまでの社会は、障がい者はいないものとして、僕たち抜きで物事が決められてきました。ですが、障がいがあるからといって、誰かが決めた様式で生活しなければいけないわけじゃない。自分のことは自分で決める権利、自分らしく生きる権利は誰にも平等にある。どんなに重い障がいがあっても自分たちの暮らしは自分たちで決める。暮らしたい街で自分らしく暮らす。人として当たり前のことですから」
「障がい者が街で暮らすと社会は必ず変わる」
「自分たちの暮らしを誰かに決められたくない。ちゃんと僕らを交えて民主的に議論して決めてほしいんです」 そう話す斉藤さんにとっての転換点は、障がい者への差別を禁じる「茨城県障がい者権利条例」の制定だったという。 障がい種別を超えた当事者同士が協力し、4年の活動を経て2014年に実現させた。そのときの活動が自信になり、「自分たちも社会を動かせる」と実感できたという。それからは一直線だった。2018年には、ほにゃらとしてつくば市への請願をきっかけに、合理的配慮への補助制度を茨城県で初めて実現させた。 障がい者が健常者と等しく社会参加できるよう、スロープの設置、手話や筆談などのコミュニケーション手段の確保、障がいの特性に応じた教育環境の整備といった「合理的配慮」の義務はこの4月、公的機関から民間事業者へと拡大された。 しかし、いくら義務とはいえ、コストも時間もかかる合理的配慮が民間に根付くのだろうか。斉藤さんには確信があるという。それは「障がい者が街で暮らすと社会は必ず変わる」というものだ。
実際、障がい者が多く暮らす「ほにゃら」の事務所周辺では目に見える変化が起きつつある。バリアフリー化された商店が増え、レストランには障がいのある人が食べやすいオリジナルメニューができた。近くのコンビニエンスストアの店長は「うちには障がいのある方がよく来るから、何かあれば手伝うよう従業員を教育しているんです」と明かす。まさに、障がい者が自分たちの生きる姿を見せることで社会は変化するのだ。