父の桐竹一暢と吉田簑助、師匠2人から受け継いだ基本と色香 文楽人形遣い・吉田一輔さん 一聞百見
文楽の華は女方の人形。近年、初々しい娘役から恋に突っ走っていくお姫さま、そして恋しい男と心中する19歳の遊女まで、数多くのヒロインに抜擢され、舞台にかれんな花を咲かせている文楽人形遣い、吉田一輔。気品と色香を併せ持つ遣いぶりは、11月に亡くなった師、吉田簑助を彷彿させる。「人形がかわいくて仕方がない」と語る一輔に、文楽人形が起こす奇跡の物語について聞いた。 【写真】父の桐竹一暢に入門した翌年の昭和59年に開場した国立文楽劇場で。中学生だった一輔は丸刈りだった ■愛する人形と努力の日々 京の祇園一力茶屋の二階座敷。酔いざましの風に当たろうと姿をのぞかせた遊女、おかるは興味本位につい一階の大星由良助(おおぼしゆらのすけ)が手にしていた密書を盗み読みしてしまう。 11月に大阪・国立文楽劇場で上演された「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」の「祇園一力茶屋の段」。後ろ向きで、手鏡に映した文を読むおかる。肩先あたりから色気がこぼれ落ちた。 その姿のあでやかさに、「簑助さんに似ている」と感じた人は多かったのではないだろうか。師匠で人間国宝だった簑助の人形の色香は比類のないものであった。 「本当ですか? そんなふうに思ってもらえてうれしいです」。まな弟子は爽やかな笑顔を見せた。 「師匠に憧れ続け、近づきたい、近づけないのは分かっているけれども少しでも近づければ、と思ってやってきました。ものまねをしているわけではないのですが、あれほどの素晴らしい芸を少しでも皆さんに見ていただけるようになりたいと思って、日々遣う努力をしています」 おかるは「仮名手本忠臣蔵」のヒロイン。夫、早野勘平の討ち入り資金の助けをするため身を売って遊女になっている。 「実は今回、今までやっていなかった演技を思い切って取り入れてみたんです」と打ち明ける。 おかるはもとは腰元。勘平をあいびきに誘う際、太ももをなでるしぐさをしたのだ。師匠の簑助は勘平のはかまの裾から手を入れるという大胆な演技をしていた。 「僕はなかなかそこまでできませんでした。でも、勘平に職場放棄させて2人であいびきするわけですから、それぐらいするだろうと思ったのです」