「統一教会という組織の全体像に少しずつ近づいている」ーージャーナリスト有田芳生の「原点」と、見えてきた「収奪の構造」
──安倍氏を銃撃した容疑者の男性については。 「2019年に来日した韓鶴子を狙ったけど果たせず、その怒りが安倍さんに向かってしまった。そこまでの深い恨みは、ちょっと想像できない。1億円以上の献金をして家庭を破壊したのは母親なのに、母親を殺そうとはしなかったわけでしょう」 ──驚くのは、容疑者の母親が入信の度合いを深めているということです。 「毎日、文鮮明の御言葉集を読んでいるそうです。それで『教団に悪いことをした』と言っていると。自分がちゃんとした信仰をもっていれば、息子を統一教会に入信させて、合同結婚式に参加させて、『地上天国』をつくるために一緒に活動することができた、それができなかったのは自分の信仰が弱かったという解釈なんです。本当に理解できない」 「その母親ですら、何か悪いことをしようとして入信したわけではなく、亡くなった夫や、病気の長男を助けるために入ったわけです。その思いに偽りはない。だけど、残された容疑者と妹さんは、食べるものもない状況で、極限まで苦しんだ。彼は家族思いだったんですよ。そういう2世がいっぱいいるんです。問題は教団なのです」
宗教法人格を剥奪しても構造は残る
有田は2010年に参議院議員に初当選。2022年まで国会議員を務めた。 ──国会議員時代も人に会ったりはしていたんですか? 「統一教会はほとんどできなかった。ぼくが国会に行った理由は拉致問題だったし、期せずしてヘイトスピーチ問題に取り組むことになったので」 ──これからどんな活動をしていきますか。 「統一教会に関していえば、臨時国会で宗教法人としてふさわしいかどうかという議論になるでしょう。だけど、統一教会自身がそう言っているように、宗教法人としての世界平和統一家庭連合は収益事業はやっていないわけです。信者たちが株式会社をつくって霊感商法もやってきたし、1億円以上の献金をしている信者が何百人もいる。異常な状態なんです。これは、統一教会が宗教法人でなくなったって続くわけですよ。教義が根源なのですから。韓国にある本部をトップとして、日本各地に支部があり、献金させて吸い上げるという構造は残るわけ。この構造をなんとかしなければ解決しない。ものすごく大変な話なんです」 「岸田さんにしても茂木幹事長にしても、問題のある宗教団体とは関係をもたないという言い方をするんだけれども、何が問題なのかを説明しないんです。何が問題かがはっきりしなければ、国民の側もすっきりしないのではないかと思います」 「いま大事なのは、過度な献金に法的にどう対処していくかと、2世たちの悩みや不安を解決する仕組みをどうつくっていくか。そういう話をしようとすると、信教の自由があるじゃないかという議論に引っ張られるんだけど、それをどう乗り越えるかが課題だと思っています」 有田芳生(ありた・よしふ) 1952年、京都府生まれ。立命館大学経済学部卒業。フリージャーナリストとして霊感商法、統一教会、オウム真理教による地下鉄サリン事件、北朝鮮拉致問題に取り組む。2010年参議院議員に初当選し2022年まで務める。近著に『改訂新版 統一教会とは何か』(大月書店)。 藤井誠二(ふじい・せいじ) ノンフィクションライター。1965年愛知県生まれ。著書に『「少年A」被害者遺族の慟哭』『殺された側の論理』『黙秘の壁』『沖縄アンダーグラウンド』『沖縄ひとモノガタリ』『誰も書かなかった玉城デニーの青春 もう一つの沖縄戦後史』など多数。