新体操の常識を覆し、「体重を減らす」から「増やす」指導へ──インターハイ常連校が取り組んできた、女子選手の体を守る「チームサポート」 #性のギモン
インターハイで上位常連の強豪校、私立伊那西高校新体操部(長野県)。同部は、指導者のほかに、管理栄養士とアスレティックトレーナーが生徒のコンディションづくりをサポートする「チームサポート」を取り入れている。取り組みを始めたのは11年前。元監督の橋爪みすずさん(59、現・日本女子体育大学教授)は、「新体操は減量が当たり前」の常識の中で、生徒に厳しい練習と減量を強いたかつての自分を悔やむ。当時、女子スポーツ選手の「痩せすぎ」とそれに伴う無月経の問題は、学校スポーツの現場では認知されていなかった。橋爪さんはどのように指導法を変えたのか。(取材・文:高島三幸/撮影:長谷川美祈/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
強豪チームの厳しい練習を支える「チームサポート」
「遅い! なぜそこで(フープを)キャッチできないのか、考えてごらん!」 厳しい声が体育館じゅうに響き渡る。つま先立ちのまま、真剣なまなざしで耳を傾ける生徒たち。「もう一回お願いします!」と演技を再開する。本番さながらの張り詰めた空気の中で、OKが出るまで何度も何度も繰り返す──。 2023年夏、JR伊那市駅から徒歩20分ほどのところにある市民体育館のエレコム・ロジテックアリーナで、伊那西高校新体操部が練習していた。 指導者の橋爪さんは2003年から同部を率いる。2020年からは母校の日本女子体育大学で教鞭を執るが、週末に伊那市に戻り指導にあたることもある。 ロジテックアリーナには、橋爪さんのほかに2人の大人の姿があった。管理栄養士の上條治子さん(57)とアスレティックトレーナーの鈴木健大(たけひろ)さん(39)だ。2人は月に一度のペースで体育館にやってくる。
鈴木さんは、けがの予防やコンディショニングのサポートを行うほか、アジリティ(俊敏性)トレーニングや体幹トレーニングを指導する。 上條さんは、年度初めに生徒と面談して、食事内容や月経の有無などについてヒアリングをするほか、保護者も参加しての「栄養勉強会」を開催する。テーマは、「五大栄養素とは」といった基本的な知識から、「夏の水分補給の仕方」や「朝食バイキングでの食事の選び方」といった実践的なもの、「若年女性の『痩せ』の問題」や「エネルギー不足による無月経や骨粗鬆症のリスク」など、多岐にわたる。