設備の老朽化、コロナ禍のダメージ、人口減少――逆境の地方鉄道が模索する「稼ぎ方」
約30席に対して、6皿のコース料理にドリンク。配膳だけで200近く。料理を提供するタイミング一つとっても、繊細な気配りが要る。地域の食材をふんだんに活かしたメニューも、季節ごと、時には月ごとに改良を加えた。 「お客さまの大半が観光の方、それもご高齢の方が占める割合が大きかった。特別な日に、1万8000円という安くない金額を頂きゆったりとした時間を過ごしてもらうハードルは高い。それでも地域の景観を感じてもらいながら、食材から地域を知ってもらうことで、1度だけではなく、『おいしい』と何度も来ていただける方が本当に多かったんです。いすみ鉄道沿線で育った自分のような料理人からすると、代えがたい喜びになっていきました」 スタート以来、池田さんの努力もあってほぼ満席状態だったというレストラン列車だが、車体の老朽化や経営環境の悪化にはあらがえなかった。
廃線後の事業転換で活路を見いだしたケースも
一方で廃線を機に、新業態で活路を見いだした三セク鉄道もある。2008年に廃線となった、宮崎県の延岡―高千穂間をつないだ「高千穂鉄道」はその一つ。高千穂鉄道は水面からの高さ105mという、「東洋一」の鉄橋上を走るトロッコ列車の存在が注目を集めていた。しかし、毎年5000万円以上の赤字が慢性化していたことに加え、2005年の台風で受けた甚大な被害が廃線の決定打となった。
しかし、廃線が決まった直後、線路を守るために有志の市民たちが集まり「神話高千穂トロッコ鉄道(現在の高千穂あまてらす鉄道)」を設立。撤去予定だった高千穂駅周辺の敷地を生かし、鉄橋をスーパーカートが走る「テーマパーク」に生まれ変わらせたのだ。2019年には約6万800人が来場し、7800万円近い売り上げをあげるなど観光資源となっている。
元乗務員で、現在、あまてらす鉄道の専務として辣腕を振るう齊藤拓由(49)さんは、こう話す。 「高千穂鉄道消滅に伴い、つらい思いや大変な思いはたくさんしてきました。ただ諦めずに今の形態を確立し、地域の一定の収益にはつながっている点はよかったと思います。それでもこの地域の交通弱者の方にとって、鉄道が利用できない不便さは変わらない。現実的には難しいですが、いつかまた、鉄道の復活する日が来ることを夢見続けています」