設備の老朽化、コロナ禍のダメージ、人口減少――逆境の地方鉄道が模索する「稼ぎ方」
「1億円」を捻出できず、廃止を決断
「エースで4番打者がいなくなったような感覚ですよ」 いすみ鉄道の古竹孝一社長(52)は、キハ28の引退をこう表現する。2012年にJR西日本から譲渡された後、観光客の呼び込みや、企画列車として一躍同社の約3割近い売り上げをたたき出す「エース車両」だったからだ。そのエースも車体の老朽化にはあらがえず、エンジンや部品の生産中止により定期運行終了を余儀なくされた。 高校卒業後30年以上にわたり同社で運転士や整備士として車両と向き合ってきた影山忍さん(49)が言う。
「最後の車両ということでとても大切に見てきましたが、部品不足はどうにもならなかった。『DMH17H』という60年以上前のエンジン用のガスケット(固定用シール材)が、21年で在庫限りとなり供給が止まったんです。エンジン載せ替えも検討しましたが、重要部検査も含めると1億円程度が必要で、その費用を捻出することは実質不可能でした」 1億円という数字は、同社の1年間の売り上げとほぼ同等だ。 千葉県、いすみ市などと並び、鉄道の株主の一つである自治体・大多喜町の平林昇町長(67)も苦渋の決断と話す。 「いすみ鉄道はこの町のシンボルでもあり、その中核を担ったのがキハ28でもありました。地元からは、まだやめないでほしい、という複数の声も頂きました。ですが、安全性の面を考慮して休止は仕方ない部分があったんです」 新型コロナウイルスの影響も、経営体力を奪っていた。古竹社長はこう振り返る。
「通勤・通学需要が一気になくなったことも大きな打撃でした。ウチの鉄道全体で、一日の売り上げが1200円という日もありましたから。全国各地から『何とか走らせる方法はないか』と問い合わせを頂きましたが、もし存続を選んでいたら会社がもたなかった」
「全国的に苦しい経営状況に置かれている」三セク鉄道
もっとも、危機に瀕しているのはいすみ鉄道に限った話ではない。 現在、全国に40数社ある第三セクター鉄道の大半は、同様の課題を抱えている。 第三セクター鉄道等協議会の小池裕明会長(62)は、「全国的に苦しい経営状況に置かれている」と明かす。