発達障害の子どもに「rTMS療法」は不適切 診断バブルを医師が懸念
「発達障害バブル」とも呼べる状況がある ―― そう警鐘を鳴らすのは精神科医の斎藤環氏。1998年に刊行した著書『社会的ひきこもり 終わらない思春期』(PHP新書)がベストセラーに(*)。『Hikikomori: Adolescence Without End』(ミネソタ大学出版)として英訳された同書は、今や英語にもなった「ひきこもり=hikikomori」の存在を国内外に広く知らせた。「精神科医だが発達障害の専門家ではない」という立場から、発達障害をめぐる現状にどのような問題を感じているのか。近著『発達障害大全』(日経BP)が話題の黒坂真由子がインタビューした。 【関連画像】斎藤環(さいとう・たまき)。1961年岩手県生まれ。精神科医。筑波大学名誉教授。オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン(ODNJP)共同代表。専門は思春期・青年期の精神病理学。「ひきこもり」の支援・治療・啓蒙活動で知られる。『社会的ひきこもり』(PHP 新書)、『オープンダイアローグとは何か』(著訳、医学書院)、『開かれた対話と未来 今この瞬間に他者を思いやる』(監訳、医学書院)など著書多数。 * 2020年に『改訂版 社会的ひきこもり』(PHP新書)が刊行されている。 日本経済新聞の読書欄へのご寄稿で、『発達障害大全』を取り上げていただきました(2024年4月13日「今を読み解く」)。 発達障害という概念のバブル的な濫用(らんよう)に警鐘を鳴らしつつ、本書について「発達障害をめぐる最新の考え方を理解する上で手に取りやすい一冊」「複数の専門家や当事者にインタビューを重ねながら、発達障害という複雑な概念を立体的に描き出す」と紹介いただき、大きな反響がありました。あらためて感謝いたします。 今日は、この記事の中で先生が示されていた、発達障害をめぐる現状に対する懸念についてお伺いしたいと思います。 まず初めに「発達障害とは何か」を、斎藤先生の言葉で説明するとしたら、どのような表現になりますか。 斎藤環氏(以下、斎藤):私は発達障害の専門家ではありませんが、大前提として「人間はすべて、脳の発達において凸凹を抱えていて、すべてが十全に発達している人は存在しない」と考えています。 その凸凹の度合いが激しいと、社会生活において支障を生ずる場合があります。その程度が一定以上大きくなった場合については、障害という枠の中で配慮していくことが望ましく、その状態を発達障害と呼ぶのであれば、あくまで社会生活との相関で決まると考えます。逆にいうと、どのような特性があったとしても、それを全面的に許容する環境が周囲にあるのなら、発達障害は存在しないというのが私の考えです。 そのような説明をしたとき、皆さん、すぐに納得してくださるものですか。 斎藤:していないと思います。多くの方が「脳に異常がある人」「認知能力に欠陥がある人」というように、「能力の欠損」として発達障害をラベリングしたがります。「社会生活との相関で決まる」という考え方は、予想以上に理解されないようです。 ●「発達障害バブル」が生じている 日経新聞への寄稿の中で「発達障害バブル」という言葉を使われていました。そう呼べるような状況は、いつごろからどのような形で生じてきたと思われますか。 斎藤:最初に1つ注釈しておきますと、「発達障害バブル」というのは、私がつくった言葉ではありません。大学の同僚の小児科医と個人的なやりとりをしているとき、その同僚から出てきた言葉で、あまりに適切な表現だったものですから、あちこちで使わせてもらっていますが、私のオリジナルでないことはきちんと申し上げておきたい。 では、発達障害バブルはいつごろからかといえば、体感でしかありませんが2000年代からだと思います。 ただややこしいのは、ここにギャップがあることです。 ギャップですか。 斎藤:ええ。精神医療の現場と、学校教育など支援の現場との間で、発達障害の受け止め方にギャップがあります。 斎藤先生は、精神医療の現場にいらっしゃいますね。