発達障害の子どもに「rTMS療法」は不適切 診断バブルを医師が懸念
ベテラン医師ほど発達障害の教育を受けていない
斎藤:精神医療の現場においては、発達障害の概念はまだまだ広がっていません。十分に知られていないのです。なぜかといえば、精神医学の教育に、発達障害の教育がなかった時期が長いからです。私は今62歳ですが、同世代の精神科医は発達障害の教育をほぼ受けていません。「発達障害バブル」が起こってから後付けで勉強して、「ああ、こういうものか」と理解したくらいで、特に成人の発達障害のケースに関してはまったく経験がない医師が多い。これが精神医療の現状です。 比較的、新しい概念であると。 斎藤:一方で、教育現場をはじめとする対人支援の現場においては、発達障害という言葉が、ちょっといささか過剰に使われ過ぎているというのが、私の偽らざる感想です。それをもって「発達障害バブル」と称しているわけです。 それは例えば、診断を受けていない子どもに対して、学校の先生が「この子は発達障害だ」と言ってしまうといったことでしょうか。 斎藤:そうですね。文部科学省の調査では、小学校低学年の児童生徒のうち、5%以上に「発達障害の可能性がある」とされています。しかし、なぜかこれが小学校高学年になると下がり、中学校に入るとさらに下がるんです。 ●なぜ、高学年になるとADHDが減るのか? このデータは 『発達障害大全』でも取り上げました。この調査は、医師の診断に基づく調査でなく、医学的な診断基準を参考にした質問項目に対する、担任の先生の回答に基づいています。 斎藤:それにしても、ちょっとおかしいですよね。多くの人が言うように、発達障害が先天性の脳の機能障害であるなら、発達障害の子どものパーセンテージは本来、変わらないはずです。「社会生活において支障を生じる」という条件があるとしても、成長するにつれて増えるならさておき、減るというのはおかしいと思います。これだけ減っているということは、小学校低学年では、先生たちによって“過剰診断”されているのでしょう。 精神医療の現場とは離れたところで“診断”がなされていて、しかも過剰診断になっている。「発達障害バブル」だと思います。 確かに「発達障害」という概念が知られるようになったために、学校の先生たちが「うるさい子はADHD(*)だ」と決めつけてしまうようになったという指摘を多く聞きます。このような状況が起こってきたのが、2000年代からというのが、斎藤先生の体感なのですね。 斎藤:そうですね。 「学校教育の現場」には「医師によらない過剰診断」の問題がある、と。では、もう一方の「精神医療の現場」では、どうなのでしょうか。発達障害の教育を受けていない医師が多いというお話がありましたが。 * ADHD(注意欠如多動症):注意・集中力の欠如と多動・衝動性が見られる障害。Attention-Deficit/Hyperactivity Disorderの略称。