オンライン会議は疲れる? 楽? それぞれのメカニズム
新型コロナウイルスの流行で大きく変わったことの一つがテレワークでしょう。 仕事上の会議や打ち合わせがオンラインで行われるようになり、疲労やストレス、やりにくさを感じる人も多かったのではないでしょうか。 これまで対面が当たり前だったコミュニケーションは、オンラインの導入によってどう変化したのでしょうか。コミュニケーションにおける視覚や聴覚の相互作用を認知心理学の視点から研究している田中章浩教授(東京女子大学)に聞きました。
オンラインで届かないコミュニケーションの”器”
――本日はオンラインでのコミュニケーションについてお聞きします。田中教授自身も会議や今回のようなインタビューをオンラインで体験されていますが、やりにくさは感じますか? オンラインでの打ち合わせは少し慣れてはきたものの、やっぱりやりにくいですね。ただ、ビデオ会議では声は伝わりますし、映像を通して、表情や身振り手振りも伝わっています。コミュニケーション研究の文脈では、言語情報と非言語情報が両方とも伝わっている状態だといえます。 ――私がうなずいている様子も今、先生に見えていますよね。 はい。それにもかかわらず、やりにくさを感じています。 それは、言葉や表情、声色などによってメッセージの“中身”は伝わっているけれど、“器”の部分が伝わっていないからではないかと思います。 ――メッセージの”中身”と”器”とはどういうことでしょうか。 “中身”とは、私たちが伝える言葉や声色、表情など、情報そのもののことです。一方で、現実の世界は空間的あるいは時間的な構造をもっています。「同じ場所にいる」「同じ時間を共有している」という私たちが普段、無意識に受け取っている環境の情報を“器”と表現できるのではないでしょうか。 例えば、今ならモニターの画面ではおそらく数十センチのところに私の顔が映っているでしょう。ですが、実際に対面した時には、こんなに近くでお話ししませんよね。話す距離感で相手に与える印象は変わりますが、オンラインでは距離感のような空間的な構造は意図した通りには伝えられません。他にも、会議の場所が賑やかなのか、暖かいのか寒いのか、なども、心のありようや一体感などに影響を与えますが、今は共有できていませんね。 ――確かに会議室の大きなテーブルを挟んで話すのと、膝をつき合わせるような近い距離で話すのとでは、話しやすさは違います。オンラインではそうした距離感の違いは感じられませんね。 私がより重視したいのは、“器としての時間”です。今、こうして話している私たちは同じ時間を共有しているような気になっていますが、通信の問題でタイムラグがありますよね。このおそらく1秒にも満たないわずかな遅れが、コミュニケーションを妨げる原因として大きいと考えています。