オンライン会議は疲れる? 楽? それぞれのメカニズム
「実験的な思考法」で自分の心の変化を見つめてみる
今のような状況になってつくづく感じるのは、我々は言葉だけでなく、相手の表情や態度などさまざまなことから、いかに情報を読み取り、絶妙なバランスで会話をしているのかということですね。同じように「はい」と答えるのも、即答するのと、間を取ってから答えるのでは、伝わる感情は異なります。ですが、先ほど言ったように、オンラインでは通信速度による遅れは常に一定ではないので、相手がどのタイミングで答えたかが(正確に)確認できません。その不確定性がさらに自分の中で不安を呼びますよね。 ――自分たちのコミュニケーションの巧みさに気づいた人が、今、世界中にたくさんいるということですね。これを契機に、心理学という学問の考え方や研究が明らかにしてきたことが伝わると、私たちの日々のコミュニケーションを見直す助けになるかもしれません。 心理学は人間一般の心の働きを科学的な手続きで明らかにしようとする学問です。研究で解明された知識を取り入れるのはもちろんですが、“心を科学的に捉える”という発想が大切ではないかと思います。たとえば、今オンラインでコミュニケーションしている自分に起きている何らかの現象は、知覚の問題なのか、記憶の問題なのか。実際に実験するのは難しくても、コミュニケーションの条件を変えたら、どのように相手との対話や関係、自分の心の感じ方が変わるだろうと考える「実験的な思考法」を、自分自身の心に適用できるといいのではないでしょうか。オンラインでは使うツールや通信状況、自分自身の設定変更などによって、否応なくコミュニケーションの条件が変わってしまうので、条件によって自分にどんな変化が生じるのかを見つめてみると面白いと思います。 ――漠然と感じるやりにくさやストレスがそういう手続きを通して理解できるものになると、いくらか和らぎそうな気がします。 私たち心理学者の研究は、工学系の研究のように、分かりやすく社会の変化につながる何かを生み出しているわけではありません。しかし、心理学の考え方やそこから明らかになった事実を知ることで、自分自身の見方や世界の見方が変わるはずです。それは工学が作り出す製品と同じくらい、人や社会を変えていくことなんだろうな、と思っています。
◎日本科学未来館 科学コミュニケーター 片平圭貴(かたひら・よしたか) 1983年、大阪府生まれ。京都大学で人力飛行機のパイロットを経験、同大学院エネルギー科学研究科で鉄の精錬を研究。製鉄会社勤務を経て、2016年4月より現職