「ノーベル賞」のその後(1)当たり前になった感染症治療とマラリアとの終わらない闘い
今年もノーベル賞の季節が近づいてきました。10月7日の「生理学・医学賞」を皮切りに、8日に「物理学賞」、9日に「化学賞」と発表が続きます。 【図】「ノーベル賞」のその後(2)X線、ニュートリノ、重力波……見えない宇宙を見つめる“目”を開く ノーベル賞の発表時はニュースなどで話題になるものの、「何かすごい賞」というイメージで、結局どんな意味がある研究だったのか分かりにくく感じている人が少なくないかもしれません。ですが、ノーベル賞は「人類に貢献した研究」に与えられるもので、私たちの生活に結びついている研究がたくさんあります。 今回は3回にわたり、過去にノーベル賞を受賞した研究がその後、どんなふうに私たちの世界を変えたのか、振り返ってみたいと思います。第1回は生理学・医学賞です。身近な医療の分野から感染症に着目して「ノーベル賞のその後」を紹介していきます。
「世界三大感染症」の一つのマラリア
私たちは日常的に大なり小なり、感染症にかかります。風邪やインフルエンザ、胃腸炎など数え上げれば切りがありません。病院に行けば多くの場合、感染症の原因が特定でき、何らかの治療を受けることができます。必要に応じて感染拡大を防ぐ対策が取られることもあります。私たちはこの治療の一連の流れを当たり前に感じていますが、前提として「感染症の正体が明らかになっている」「感染の仕組みが解明されている」「発症時に体内で何が起きているのか分かっている」からこそ、可能になっていることです。では、これらの前提が研究によって明らかにされる以前、人類は一体どのように「見えない敵」である感染症と闘ってきたのでしょうか? ここからは、エイズ、結核とともに世界三大感染症の一つであるマラリアに焦点を当てていきます。マラリアというと、熱帯・亜熱帯地域など海外の病気で、日本には関係がないと感じるかもしれませんが、実は大いに関係がある感染症です。
長らく科学的根拠のない治療がなされてきた
マラリアとは、発症すると発熱、貧血、脾(ひ)臓の腫れをもたらす感染症で、重症化すると脳症や腎不全を引き起こし、死亡するケースもあります。原因となるマラリア原虫は単細胞の寄生虫で、ハマダラカ属の蚊の吸血を介して、人から人へと感染が広がっていきます。 人類とマラリアの闘いは約50万年続いていると考えられています。マラリアはこれまで多くの人間の命を奪ってきており、その中にはツタンカーメンや平清盛などの歴史上の人物もいます。今もなお世界で年間2億人以上が感染し、43万人が死亡する深刻な感染症です(2017年現在)。マラリアは海外の感染症のイメージが強いかもしれませんが、実は1960年代までは日本でも土着の感染症として長らく定着していました。