各地域のアーティストはハラスメントや労働環境改善にどう向き合っているのか。「美術に関わる脱中心の実践・2023・報告」レポート
「脱中心」とは何か?
近年、日本各地でアートに関わる人々の権利向上や制作環境改善の取り組みが見られることを受け、2023年12月11日、広島市内にある「加納実紀代資料室サゴリ」にてミーティング「美術に関わる脱中心の実践・2023・報告」が行われた。主催はアーティスツ・ユニオン(*1)。「加納実紀代資料室サゴリ」は長年にわたりジェンダー、植民地主義、広島についての実践を重ねてきた「ひろしま女性学研究所」が運営母体となり2023年3月に開設された場所だ。 この会に参加したのは、HAUS | Hokkaido Artists Union Studies(北海道)、かわるあいだの美術実行委員会(鹿児島)、「アーティストの条件」企画チーム(沖縄)、trunk(秋田)、「サゴリ」に集うひろしま有志の会(広島)の5組(発表順)。モデレーターは小田原のどか(アーティスツ・ユニオン)。 小田原がオブザーバーを務めるアーティスツ・ユニオンは日本初、現代美術のアーティストの労働組合として2023年1月に発足。支部長は村上華子が務める。美術に関わる個人のエンパワメントやアート・ワーカーの活動環境のために結成された「art for all」、小田原が支部長を務め、常勤・非常勤の雇用契約を区別することなく組合員になることができる労働組合「多摩美術大学ユニオン」、あいちトリエンナーレ2019での『サナトリウム』やReFreedom Aichiといったアートワーカーの自己組織化によって起こった活動・運動の延長線上にあると小田原は言う。「こうした動きが各所で起こっているのは偶然ではありません。共通点もあれば差異もあり、どういった困難があるのか、バックラッシュへの対処などを共有できるつながりがいっそう必要になると考え、今回の集いを企画しました」と小田原。 また今回のミーティング名にある「脱中心」については、ファシリテーターの山本浩貴から次のよう話があった。「『脱中心化』というのは、たとえば男性中心的、異性愛中心的、白人中心的なこれまでの美術史をとらえ直していくもの。ただ、脱中心はふたたび新しい中心を作ることではなく、中心とされるものを複数化することです。そんななか、私はこれまでの様々な『脱中心』の取り組みにおいてプラットフォーム自体が脱中心化されているかということを疑問に思っていました。多彩な地域での活動から互いに学び合う今回の取り組みのように、プラットフォームを多様化し、インフラを脱中心化し多様化していくのはすごく意義があると思う。中心ではないとされてきたルールや声や活動がネットワークを作りながら中心的な規範に疑問を突きつけ、批判し、再構築していくのは重要です」と、今回の会の意義を語った。 このレポートでは、約2時間におよんだ各団体の発表内容を紹介していく。