各地域のアーティストはハラスメントや労働環境改善にどう向き合っているのか。「美術に関わる脱中心の実践・2023・報告」レポート
かわるあいだの美術実行委員会(鹿児島)
かわるあいだの美術実行委員会は、鹿児島在住の美術家を中心に2020年に発足。メンバーは鹿児島在住の美術作家とキュレーター、アドバイザーとして県外の学芸員とキュレーターで構成される。 発表者の平川渚は、「鹿児島では様々な場面で価値観が固定化されていることが多く、前衛的なものが認められにくい」と話す。加えて、2023年都道府県別ジェンダーギャップ指数で鹿児島は教育の分野で44位、政治では46位と横ばいで低迷であり、美術の状況としては、黒田清輝、藤島武二ら同県出身者を起点とする近代洋画の系譜を主流とし、まだ価値づけされていない表現を受け入れ、育む環境が整っていない印象もあると指摘。 そんななか、現代アートの展覧会を実行するため委員会を組織し、ローカルとグローバルを意識した活動を行ってきた。鹿児島市立美術館が20年ぶりの現代アート展が開催されることをきっかけに、委員会では鹿児島出身・在住の6名のアーティストが参加する「生きる私が表すことは。鹿児島ゆかりの現代作家展」を企画。副題の「We know more than just the names of flowers.」は2015年に鹿児島県知事(当時)が「高校で女の子にサイン、コサイン、タンジェントを教えてなんになるのか」「植物の花や草の名前を教えたほうがいい」という発言を受けてのものであった。
「アーティストの条件」企画チーム(沖縄)
2023年11月3日、4日の2日間にわたって那覇文化芸術劇場なはーと小劇場にて、なはーとカンファレンス2023「アーティストの条件~アートワーカーの制作環境を考える~」というトークイベントが行われた。今回発表を行うのはその企画チームだ。メンバーは上原沙也加(写真家)、寺田健人(写真作家・美術家)、福地リコ(映画制作者)で構成される。 文化芸術を通じて那覇のまち、社会をより豊かなものにしていくためには、アートワーカーの制作環境を整え、アーティストが安心して仕事と生活を両立できることが重要であるというコンセプト。また、やりがい搾取による低賃金・長時間労働、契約雇用の不明瞭さ、ジェンダー格差、ハラスメントなど全国的に問題となっている課題を踏まえ、沖縄でも問題を可視化し議論がなされることを期待してカンファレンスは開催された。 カンファレンスでは、沖縄県内でアートワーカーへの搾取やハラスメントの問題が常態化していること、個人で活動するアーティストの問題が表面化しづらいこと、身近な問題を可視化し、自治的に解決していくために沖縄から声を上げることが重要であることが挙げられた。 また問題の詳細として、県内での仕事はほとんど口約束で契約書など文書に残ることが少ないこと、仕事依頼時に条件が事前に提示されないこと、本来依頼されていた制作とは関係のない仕事までついでに任されてしまうこと、そもそもアーティストがお金の話をするのがタブーであるかのような風潮があること、県外への運送・交通費コストなどが指摘された。そのいっぽうで、コミュニティの狭さゆえに横のつながりで連帯し、変わるときも一気に変わることができるのではないか、新しい世代を自分たちでつくることできるのではないかという意見もあったという。 カンファレンスは予想以上の反響があり、地元紙でも取り上げられた。「行政とアーティストが共同でアートワーカーの問題に取り組めたことは、現時点では全国的にみても稀な活動になった。今後も行政に働きかけながら、それぞれの立場から協力して環境整備に取り組んでいきたい」と発表者のひとり、上原沙也加は話す。