各地域のアーティストはハラスメントや労働環境改善にどう向き合っているのか。「美術に関わる脱中心の実践・2023・報告」レポート
trunk(秋田)
trunkは、「秋田を拠点に、既存のメディアでは取り上げられない、取りこぼされてしまわれがちな声を様々なかたちで発信、共有し、すべての人が生きやすい環境を目指して、ゆるく連帯しながら活動する団体」をコンセプトとしている。普段話す機会の少ない性やジェンダーについて安心して意見を交わす場をつくるお話会や勉強会の開催、地方都市での生活で感じるモヤモヤを明るく配信するラジオ番組やトークイベント、トランスジェンダーの人々に対する差別に対抗し連帯を表明する展覧会の開催や、ZINE制作も行うなど活動は多岐にわたる。 2023年11月には「国際トランスジェンダー追悼の日」に合わせ、秋田公立美術大学の西原珉と共催で展覧会「When we talk about us, 」を秋田市文化創造館で開催した。活動の中で、1998年から東北で活動している「性と人権ネットワークESTO」や、秋田プライドマーチ実行委員会、アーツセンターあきた、秋田市福祉保健部 障がい福祉課、秋田県中央男女共同参画センター、地元新聞社である「秋田魁新報」などと連携した企画も行ってきた。メンバーの堀内しるしは「当事者に寄り添った記事を書いてくれたり、協力してくれる地域団体の存在は大きい」と語った。 trunkに集う人々は職種も年代も様々で、展覧会も多様な表現ツールのひとつと捉えている。全員がひとつの目的に向かうのではなく、それぞれの経験や問題意識の共通点を探す。「それらの問題が全部どこかでつながっているからこそ、多様なテーマを横断しながら続けてこられたと思う。連帯を広げていけるように活動を頑張りたい」と締め括った。
「サゴリ」に集うひろしま有志の会(広島)
「『サゴリ』に集うひろしま有志の会」は、広島のアートシーンにおけるアートワーカーの権利向上と、環境改善のために立ち上がった有志の会だ。発表者の山下栞は「サゴリを拠点とし、アートワーカーが直面している困難や、日々のモヤモヤを共有できるような場所を作っていけたらと思っている」とも述べた。 サゴリという場所は被爆者で女性史研究者でもあり、「他者、あるいは他国の人々を踏みつけにしない私たちの解放の方向をさぐるために」という言葉を残した加納実紀代の全蔵書・研究資料を中心とした資料室である。「ヒロシマ・ジェンダー・フェミニズム・女性史・植民地主義」という被害以外の側面から広島を読み解くために様々な視点が交錯する場所でもあるとのことだ。 広島市のアートシーンの現状は、一部の関係者を中心としたアートシーンの成り立ちなどに由来するのではないかという。長年の個人間の関係性の延長にアートシーンでの仕事の繋がりがあること、アーティストを志す学生が抑圧される深刻なキャンパス・ハラスメントと二次加害を温存する構造や、"顔馴染み"が優先される環境、「問題がある」と言うことさえ困難な状況があるとのことであった。 広島市立大学芸術学部の男性教授によるセクシュアル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメントと、その二次被害としてのギャラリーハラスメント(展示会場での迷惑行為)など、発表者が相談を受けただけでも「数え切れないほどの事例(問題)がある」という。 また、一部のアートワーカーによる立場の優位性を利用した、フリーランスのアートワーカーへのハラスメント行為や、虚偽をアート関係者へ吹聴し、仕事の進捗を妨げるような嫌がらせも問題として挙げられた。また、これらの問題の改善のために適切な調査・対処等をするための機関も存在していない。これは、様々な出自や実践の方法を展開するアートワーカーたちが、地域に根ざしながら安心して仕事を続けることができない環境を温存してしまっている原因のひとつではないかと山下は述べた。アートシーンに関わる問題を、加納実紀代精神に基づいた複数の視点と軸足を交錯させながら考える場所としての性質がサゴリには期待される。 これからの展望として、サゴリを中心にアートに関わる度合いを問わず、環境に対して違和感を持ったときに集まれるような場所と雰囲気作りを目指すこと、目標を同じくする他団体と交流し、エンパワメントし合えるような関係性の構築を目指すこと、問題解決のために被害当事者を矢面に立たせない連帯の場を作っていきたいということが語られた。