来春にも日銀はマイナス金利解除? でも意外にも高いハードル「3つの負」
経済過熱による物価上昇には程遠く
他方、植田和男総裁をはじめとする日銀の政策委員は、現在の日本のインフレは輸入物価に由来するものであるため「一時的」、ゆえにマイナス金利解除には「まだ距離がある」と説明しています。欧米のように賃金が著しく上昇し(例えば米国の平均時給は2022年前半に6%近辺まで上昇)、その労働コストが価格転嫁されて激しいインフレが起きているなら話は別ですが、日本の名目賃金は約30年ぶりの上昇率とはいえ、その伸び率は2%弱に過ぎません。賃金のすう勢を反映する正社員の基本給は2%をやや下回る水準にあり(毎月勤労統計における一般労働者の所定内給与)、こうした状況で2%の物価目標が安定的に達成されるかは疑問です。しかも、現時点において2024年度春闘は2023年度実績(ベア相当部分で約2%)をやや下回ると予想されています。そうした前提を踏まえると、2024~25年度に消費者物価が2%を下回るという日銀の物価見通しは一定の妥当性があるでしょう。 現時点において日本経済は需給ギャップ、実質消費支出、実質賃金という「3つの負」を抱えています(内閣府が推計するGDPギャップは小幅プラス)。経済が過熱し、その結果としての物価上昇ならば金融引き締めは強い妥当性を持ちますが、残念ながらそうした状況には程遠いと言わざるを得ません。金融引き締めによって為替が円高になり輸入物価が下落すれば良いのですが、15年超ぶりの利上げに対して人々が過剰反応(住宅ローンの繰り上げ返済、消費から預金へのシフト)するなどして引き締め効果が増幅され景気が減速すれば、名目賃金が下押しされてしまう可能性は否定できず、そうなれば実質賃金がさらに減少してしまう可能性すらあります(物価以上に賃金が下がってしまう)。 そう考えると、コンセンサスになりつつあるマイナス金利解除のハードルは意外に高いかもしれません。日銀が動く前に米国の金融当局(FRB)が金融緩和に踏み切るとの観測が芽生えるなどして為替がドル安・円高方向に推移すれば、そのまま現在のマイナス金利政策が続く可能性もあります。
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