追い詰められ、親を叩いてしまう人も...想像を絶する「在宅介護の苦しみ」
「心配だから」と親を縛っていないか
【ニコ】「在宅介護は無理、仕事も自分も大事」と割り切れればいいですが、「頭ではわかっていても......」となりますね。 【川内】よくわかります。しかしせっかくなのでもう一点、ご家族が聞きたくないかもしれないお話をします。先ほど、「介護保険は介護されるご本人の自立のための制度」だと言いましたね。ところが多くのご家族が、「本人の自立」ではなく「家族の不安解消」のために介護保険を使おうとされます。転ばせたくない、家から出したくない。ベッドの周りに柵を立て、部屋に鍵をかける例もあります。 【ニコ】そこまでではないものの、私たちも先回りしてケガを防ごうとはしていました。どこまでが本人のためでどこから家族のためか、難しいですね。 【川内】目安は、ケアマネさん(ケアマネジャー=介護支援専門員)などから「介護保険ではここまでしかできません」と言われるラインです。「これだけ!?」と思ってそれ以上のことを自分で頑張るほど、不安解消のゾーンに入り、先回りが増えます。 【ニコ】本人を守っているつもりが、縛っている状態に。 【川内】そう、本人はストレスを溜め、家族の負担も増えます。実はこれ、ビジネスパーソンが陥りやすいパターンです。普段、会社で行なう「課題解決」の思考を介護に持ち込んで、「あれを防がねば、これを解決せねば」となるのですが、高齢者の生活は課題があって当たり前。ここでもマインドの切り替えが必要です。 【ニコ】課題は山積ですよね、特に認知症ともなると。 【川内】認知症も実は、ご本人にとっては必ずしも不幸ではなく、むしろ記憶がなくなることで幸せになる方もいます。介護施設の職員をしていたとき、とても穏やかな顔の男性がいました。この方、現役時代はハードなお仕事をバリバリこなされていて、当時の写真を見るととても険しい顔。変われば変わるものですね。過去や肩書がなくなると、その人自身が残るんです。 【ニコ】わかる気がします。祖母も最終的に施設に入ったのですが、その際、祖母の好きなことなど、「人となり」を職員の方に伝えました。するとそこから色々と話が弾むようになったようで、「伝えて良かった」と思いました。 【川内】いいですね。それこそが家族のできることです。介護そのものを頑張らず、自分しか知りえない本人の人となりをプロに伝える、プロによる介護の態勢を整える。これが、「仕事と介護の両立」が可能になる最善の立ち位置です。
川内潤(NPO法人となりのかいご代表理事),ニコ・ニコルソン(漫画家)