追い詰められ、親を叩いてしまう人も...想像を絶する「在宅介護の苦しみ」
実は危険な「テレワーク介護」
【ニコ】母も祖母につきっきりでした。夜もろくに寝ず、昼間は仕事に出かけて。 【川内】お母さんは外でお仕事。ニコさんはどこでお仕事を? 【ニコ】実家で、深夜に働きました。でも祖母がしょっちゅう起きるので目が離せず、震災のときでさえ落とさなかった原稿を、一度落としてしまいました。あの頃は、東京から離れて仕事のキャリアが止まるかも、という焦りも強かったです。 【川内】そのお話、テレワークで在宅介護をしている方の状況と似ています。最近このかたちの在宅介護が増えていて、企業も悪い意味で協力的。テレワークの日数上限を撤廃するなどの制度を設けて、「当社は仕事と介護の両立を応援します」と標榜するのが典型例です。 【ニコ】実際のところ、両立は困難ですよね。経験して初めてわかることですが。 【川内】その通りです。困ったことに、最初は従業員から「テレワークで介護を」という声を上げることが多いんです。そうして会社に対応してもらったあとで、無理だとわかる。でも今さら何も言えず蟻地獄に......というパターンが続出しています。 【ニコ】恐ろしいです。この場合、どうすればいいのでしょう。 【川内】こういう相談を受けたとき、私は「一回家を出てください」と言います。地域の包括支援センターに「家を出ます」と電話を入れ、住所と老親の名前を言って逃げなさい、と。包括支援センターには、こうした事例に対応する体制がありますから。 【ニコ】そんな方法があるのですね。でも実行するのは心情的に難しそうです。 【川内】確かに。しかしこの状態が続くとキャリアが台無しになり、結果として要介護者本人を憎むことにもなりかねません。ちなみに、ニコさんのように「お母さんが心配」というときも、包括支援センターに事情を密告する手があります。 【ニコ】密告ですか(笑)。 【川内】そう、お母さんに内緒で現状を話す。これなら東京を離れずにできますね。事前に一報入れておくと、「お母さんがついに倒れた」というとき、即座に支援に入れる体制を整えられます。 【ニコ】逆に言うと、直接助けには行かないということですね。しかも倒れるまで? 難しい~! 【川内】あえて、シビアなことを言いますね。お母さんがご自分の意志でお祖母さんの世話をすることに対して、子どもには何の責任もありません。仕事を犠牲にして「助ける」ことで共倒れになるよりは、「見守る」ほうが結局は全員の安全を保てる。私はそう思います。