ホモ・サピエンス起源の謎―母なる大地アフリカをいつ、なぜ出て行ったのか?
アフリカ脱出の原因とは?
我々の直接の“ご先祖様”にあたるホモ・サピエンスの個体(または集団)は、どうして住み慣れたアフリカの大地を離れたのだろうか? 特に27万年くらい前に起きたとされる最初の大きな移住トレンド時において。 出アフリカの原因には、おおまかに以下の仮説があるようだ。 (1)「環境の激変」によってやむなく逃げ出した。 (2)他の人類の種や集団との「生存競争」を避けるため。 (3)「餌となる獲物」(大型哺乳類など)を追い求めた。 (4)ライオンなどの「プレデター」から逃げるため。 (5)偶然、気まぐれに「好奇心」に導かれての移動。 このようなものが代表的な例としてまず挙げられるだろう。あえて断っておくが、あくまで仮説である。何万年以上も前のことなので歴史書のような形で何かに書き残された直接の証拠など存在しない。ひいひいひいお婆さんに尋ねても、もちろん答えは得られない。 そのため、研究者は「サイエンス的な仮説」として、はっきりしない謎の説明を試みる。こうした仮説はさまざまな断片的な(時にあやふやかもしれない)証拠(データ)によって構築されている。 そのため、どの仮説が最も有力なのか、ここではあえて触れないでおく。書き出すと、かなり長くなるおそれがある。複数の要素が複雑に絡み合っていたことも、可能性として当然あるだろう。そして、研究者によって意見もかなり分かれている。 特にこうした古生物学上の仮説は、教科書に記された事柄のように丸暗記するのではなく、単純にミステリー小説や映画を楽しむように触れてみてはいかがだろうか? この記事を読んでいる方がそれぞれ「推理」を働かせて、自分の好みのアイデアを見つけてももちろんOKだ。(こうした推理ゲームが古生物学における一番の醍醐味かもしれない。) 一つだけここに仮説に対する接し方としての例をあげておく。(あくまで私がこの記事のために手っ取り早くまとめたものであり、事実とはややかけ離れているかもしれない。) 「環境の激変」の仮説に関して、一つ興味深い論文を見かけた。2007年にScholz等によって発表されたアフリカ東南部に位置するマラウイ湖の太古環境の研究は、13万5000年から7万5000年の間にかけて、水深が(現在と比べて)600m近く下がった時期があったことを示している。この水深の低下は湖全体の水量の95%が失われた計算になる。一連のデータから、氷河期の終わりにあたるこの期間、アフリカ東部は「大規模な旱魃(かんばつ)」に襲われていたと考えられている。 ―Scholz, C. A., T. C. Johnson, et al. (2007). "East African megadroughts between 135 and 75 thousand years ago and bearing on early-modern human origins." Proceedings of the National Academy of Sciences 104(42): 16416-16421. つまり初期の人類はこうした過酷な環境を避け、より食料の豊富な場所 ── いわゆる新天地 ── を求め、ユーラシア大陸へやむなく移動してきたというわけだ。 こうした大旱魃が、はたしてどれくらいの規模で、具体的にいつごろはじまり、どれくらいの期間つづいたのか? ピークはいつだったのか? 更なる疑問がわいてくる。このようにサイエンス上の仮説を、一つ一つ吟味していく作業を研究者は日常的に行っている。こうした思考上のプロセスは、事柄や事象をより深く理解・探求する上で避けて通ることはできない。