私の胸を音を立てながら潰していった「衝撃的な報せ」
永美さん描き下ろしの初めてのカット
永美さんが私の本に寄せてくださった最初のカット絵は、「太陽系を2回以上くくれるDNAの紐」というものだった。 私たちヒトの1個の細胞あたりに含まれるDNAはおよそ2メートルなので、ヒトの1個体を細胞60兆個であるとした場合に、一人一人がもつDNAの総延長は、太陽系を2回以上くくれるくらい長大になる(現在では人の1個体の細胞数は37兆個程度だと考えられているので、実際には1回半くらいだろう)。 鬱々とした太陽の表情と、そのシステムを囲うDNAを伸ばす宇宙服を着た人物の表情。永美さんが見事に表現してくださったカット絵は、まさに子どもの頃から、私の脳内に強烈に刻み込まれていたそれであった。
永美ワールドの奥深さを物語る1枚
同書のために永美さんが描いてくださったものの中では、特に「ポリメラーゼ三姉妹の役割分担」というカット絵が、永美ワールドの奥深さを物語っていたと、おこがましくもそう思っている。 DNAが複製される際の2本の鋳型鎖それぞれの複製を担う2つのDNAポリメラーゼと、DNA複製の最初のきっかけ(プライマー)を作るDNAポリメラーゼ。これを永美さんは、手漕ぎボートの2人の漕ぎ手とそれに合図を送るリーダー格、計3人の貴族風の娘たちになぞらえてくださった。 こんな斬新なイメージは、DNAポリメラーゼの実験的研究しか頭になかった当時の私には、まったく思い至れないものだったし、今でもなお、想像すらできなかっただろう。なんと興味をかき立てる、クスっと笑わせる、そしてわかりやすい描写だろうか。 科学コミュニケーションが重要視されるこの時代にあって、科学者たちは日々、自分の研究する世界を一般の人々に伝えようと努力しているが、いずれの試みも、永美さんのイラストにはとうていかなうまい。
永美さんへの「当て書き」
『DNA複製の謎に迫る』に続いて、私は『生命のセントラルドグマ』(2007年)、『たんぱく質入門』(2011年)を上梓し(「DNA三部作」)、さらに『新しいウイルス入門』(2013年)、『巨大ウイルスと第四のドメイン』(2015年)、『生物はウイルスが進化させた』(2017年)を書き上げた(「ウイルス三部作」)。 もちろん、それらどの著作においても永美さんにカット絵をお願いし、それぞれに4~5点ずつ、いずれも「これぞ永美さん」というイラストをお寄せくださった。 かつて、夢踊る少年、そしてブルーバックスの読み手であった頃に、ブルーバックスの名とともに私の頭に刻印された永美さんのカット絵は、ブルーバックスの書き手となった今でもなお、私にとってなくてはならない存在になっていた。 ありていにいえば、ブルーバックスとしての第2作『生命のセントラルドグマ』を書いたときから、「ここに永美ハルオさんのカット絵を挿入する」ことを最初から織り込みずみで、私はこれらの原稿を書いてきたといっても過言ではない。言葉を換えるなら、「永美さんならここをどう表現してくださるだろう」ということをつねに思い描き、そしてそれを楽しみにしながら、私は原稿を書いてきたのである。