なぜバース氏と山本昌氏は殿堂入りできなかったのか?
リー兄弟の兄、元ロッテのレロン・リー氏と、元オリックス(阪急)、ダイエーで10年間プレーしたブーマー氏だ。 リー氏は、首位打者、本塁打、打点のタイトルを総なめにし、4000打数以上の生涯通算打率.320は、歴代2位の記録。ロッテでの11年間の通算安打は1579安打(日米通算1983安打)、283本塁打だったが、候補者から消え、ブーマー氏は、首位打者2回、打点王4回、最多安打4回で1984年には打率.355、37本塁打、130打点で3冠王を獲得しているが、一度、候補者から消え、今回復活した。日本球界でのプレー年数と実績から言えばバース氏よりも、この2人が上。そのブーマー氏に票を取られ、バース氏の殿堂の歴史を塗り替える当選が幻に終わったのも皮肉なものである。 実は、今回、候補者数を広げることには、表彰委員会の内部で意見が分かれたという。候補者は表彰委員会が、東西の幹事の意見を持ち寄って決定するが、「プレーヤー表彰は20人に絞るべきだ」、「いやできる限り増やしていい」などの議論がなされた。候補に選ばれ、名前が挙がることそのものが名誉との見方もあるが、30人に拡大された時点で、「票がばらけて当選者が出ないかも」と危惧する声が上がったという。プレーヤー表彰は7人以内の連記方式で、今回、一人平均5.7人の記名と、昨年の5.4人より投票数は上がったが、結果、分母が大きくなり、75%をクリアするために必要な投票数も増えることになった。 来年度は、プレーヤー表彰では、2年連続トップ投票となった高津氏、山本昌氏、エキスパート表彰では、トップ投票のバース氏と、73票(54.5%)で2位となった掛布雅之氏の阪神が日本一となった1985年のクリーンナップの同時殿堂入りへの期待感も高まるが、この候補者数問題をクリアしなければならないだろう。 1992年に野球殿堂入りしており、投票権を持つ広岡達朗氏は、今回、候補者数が増えたことに異議を訴えて、投票権の返上を一度、委員会に申し立てている。 「殿堂入りの該当者なしの結論は正解です。そもそも、なぜこの人が候補者になるのか、というふさわしくない人物まで候補になっている。私は、それを聞いたとき、誰でもかんでも名前を出すことは止めなさい、選考から降りるという話もさせてもらった。殿堂とは権威のあるものでなければならない。殿堂入りの定義をもう一度よく読んでごらんなさい」 1959年に創設された日本の野球殿堂は「日本の野球の発展に大きく貢献をした方々の功績を永久に讃え、顕彰するため」と定義されている。 広岡氏が示唆した「ふさわしくない候補者」が誰かはわからないが、異議を申し立てたのは、この定義の「大きく貢献をしたかどうか」という部分なのだろう。 それこそ曖昧な定義である。そこは投票者の判断に委ねられることになっているが、広岡氏は、殿堂の権威と品格は守られるべきだと考えている。 この日、特別表彰で殿堂入りしたノンフィクション作家で、高野連の顧問として21世紀枠の創設の理念作りにも携わった佐山和夫氏は、こんな話をしていた。 「20世紀の野球は、強さ、勝つこと、倒すことに価値を置く戦争の世紀。今後は、そこから脱却し、まったく違う多様な価値観を身につける必要があるのでしょう」 多様性の時代だからこそ、幅広く、いろんな人に選ばれる権利があってもいいのかもしれない。だが、選ぶ側に見識がなければ、多様性は単なるポピュリズムに置き換えられることになってしまう。